給与収入だけで老後資金をまかなえるのか不安に思う人が増えている。多くの人にとって「投資」が避けて通れない時代になってきた。資産を増やすという点で大きな選択肢の1つになるのが株式投資だ。「株投資をはじめたいけど、どうしたらいいのか?」。そんな方に参考になる書籍『株の投資大全――成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』(小泉秀希著、ひふみ株式戦略部監修)が3月15日に発刊された。「ひふみ投信」の創始者、藤野英人氏率いる投資のプロ集団「ひふみ株式戦略部」が全面監修した初の本。株で資産をつくるためには、何をどうすればいいのか? 本連載では、特別に本書から一部を抜粋・編集してその要旨をお伝えしていく。

PERで注意するべき2つのパターンーー(1)高すぎるPERの修正Photo: Adobe Stock

高いPERで株を買ってしまうと、
その後、業績を伸ばしても株価は低迷してしまうことも

 次に、JPホールディングスが2013年5月に高値を付けた時の状況を見てみましょう(下図)。同社は「アスク」という名前で展開する保育園運営の最大手企業です。

 この当時は、保育園の運営が規制緩和によって民間にも開放され、保育園の民間運営が急速に拡大しているところでした。それまでの保育園運営は、地方自治体が行う他には特定の社会福祉法人が独占していて、非効率で不透明な経営が指摘されることも多い状況でした。

 そこに運営能力の高い民間企業が参入して、あっという間にシェアを拡大していったわけです。その中でも圧倒的なトップ企業がJPホールディングスでした。この当時の同社は売上高、営業利益ともに4年で倍増以上という高成長を続けていました。

 この時にはさらに、安倍晋三政権がスタートして待機児童ゼロが主な政策テーマの1つとして打ち出されていたこともあり、JPホールディングスの株が人気化しました。

 ピークを付けた時の株価は3940円ですが、2022年時点から分割修正してみると788円となります。2014年3月期の分割修正した1株益は10円です。PERは79倍となり、あまりにも過熱していたといえます。

 JPホールディングスはその後も業績を順調に拡大し続けて、2023年3月期の1株益予想は26.6円となっています(2022年8月現在)。

 9年間で1株益を2.6倍にしたわけですが、株価は260円前後と9年前の3分の1の水準に落ち込んでいます。PERが79倍から10倍へと約8分の1に下がったからです。

 このように、あまりにも高いPERで株を買ってしまうと、その会社がその後頑張って業績を伸ばしても、株価は長期的に低迷してしまうことがあります

 JPホールディングスは、長期的に業績を着実に伸ばし続けていますし、2022年3月期時点で344億円まで伸ばした売上高を、今後さらに1000億円に拡大する目標を打ち出しています。

 同社は保育園事業を核にしながら、最大手としての運営ノウハウの蓄積と高度なIT化を武器にして、児童クラブ、児童館、給食事業、学習プログラムの開発などへ事業領域を広げ、総合的な子育て支援事業会社として成長戦略を推進しています。

 こうしたビジョンを実現しながら成長が続くのであれば、2022年時点でのPER10倍前後の水準は、かなり割安といえるかもしれません。

小泉秀希(こいずみ・ひでき)
株式・金融ライター
東京大学卒業後、日興證券(現在のSMBC日興証券)などを経て、1999年より株式・金融ライターに。マネー雑誌『ダイヤモンドZAi』には創刊時から携わり、特集記事や「名投資家に学ぶ株の鉄則!」などの連載を長年担当。『たった7日で株とチャートの達人になる!』『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ザイが作った「株」入門』ほか、株式投資関連の書籍の執筆・編集を多数手がけ、その累計部数は100万部以上に。また、自らも個人投資家として熱心に投資に取り組んでいる。市民講座や社会人向けの株式投資講座などでの講演も多数。
ひふみ株式戦略部
投資信託ひふみシリーズのファンド運用を担うレオス・キャピタルワークスのメンバーにより構成された本書監修プロジェクトチーム。
ひふみ投信:https://hifumi.rheos.jp/