日本人が魚を食べる量が減っている一方で、世界では魚の需要が伸び続けています。外国人の寿司人気もますます上がっている昨今、魚文化に関する知識は、ワインのように「世界の教養」に近付きつつあると言っても過言ではありません。魚の中でも、もっとも手軽に食べられるものの一つが「サバ缶」。実は日本だけでなく、世界的に愛されている缶詰なのです。ドラマ「ファーストペンギン!」の監修者で、魚のプロであるながさき一生氏が、知られざるサバ缶の秘密を教えます。(おさかなコーディネータ ながさき一生)
なぜここまで人気になった?
サバ缶の歴史をひもとく
先日、『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める本』という本を出版しました。ビジネスパーソンが知っておきたい魚の教養を読みやすくまとめた内容になっています。担当編集者に送ったところ、「サバ缶大好きです!昔から人気があるのかと思ったら、2000年代に入るまではそうでもなかったとは知りませんでした」との反応が返ってきました。そういうわけで今回は、サバ缶の歴史について掘り下げてみたいと思います。
まずは、サバ缶がなぜここまでの人気を誇るようになったのかをたどってみましょう。実は、サバ缶の起源は、はっきりとは分かっていません。ただ、遅くとも昭和30年代(1955年~)には、大洋漁業(現・マルハニチロ)がサバを水煮缶に加工し、ヨーロッパや東南アジアに輸出していたという記録が残っています。
このように、いろいろ種類がある中でもサバ缶の代表といえる水煮缶は当初からありましたが、かなり長い間、保存食や「おじさんの酒のつまみ」という位置付けでした。これが変化し出したのが、2013年。テレビ番組で「サバ缶がダイエットに良い」と紹介されたのがきっかけで、一時は売り場から消えるほどバカ売れする事態に。これが“第一次サバ缶ブーム”です。
「サバ缶は女性にウケる」ということが分かると、岩手缶詰の「サヴァ缶」に代表されるオシャレなサバ缶など、バリエーション豊かな商品が次々と開発されていきました。さらには、サバ缶のレシピも洋食をベースとしたオシャレなものが増え、ブームが続いていきます。そして2016年には、ツナ缶を抜いて魚缶ナンバーワンの生産量を誇るようになりました。この頃は“第二次サバ缶ブーム”と呼ばれます。
そして、迎えたコロナ禍。安価で調理が簡単なサバ缶は、巣ごもり需要にもってこいの食材だったため、さらに人気となりました。この現象は、“第三次サバ缶ブーム”と呼ばれています。
このようにして人気を高めてきたサバ缶。その味の良さや手軽さから、好きな人も多いと思いますが、その裏側はどうなっているのでしょうか。