クレームや炎上が日常茶飯事になってきた近年、特に問題になっているのは「シニア世代」のクレーム客だという。これは、団塊の世代が引退した頃に目立つようになった現象で、「団塊クレーム」や「シルバークレーム」などと呼ばれている。話が長いため対応時間が長引くことが多く、お客さま対応をする現場の負担になっているそうだ。『クレーム対応 最強の話しかた』では、そういった人たちのクレームにどのように対応すればいいかを教えてくれる。本記事では、本書の内容をもとに、増え続けるシニアからのクレームへの対処法を指南する。(構成:神代裕子)

クレーム対応 最強の話しかたPhoto: Adobe Stock

団塊の世代に多い、シニアクレーマー

 近年、シニア層のクレーム客が増えている。職種によっては、「まさに、日々その方々からのクレームに頭を悩ましている」という人も少なくないだろう。

 本書の著者であるクレーム・コンサルタントの山下由美氏のセミナーでも、「長時間にわたってクレームをつけるシニアにどう対処するか?」といった質問が多いのだそうだ。

近年、現場を悩ませているのがシニア世代のクレームのお客さまです。コールセンターだけではなく、公共機関や病院、店などで、業務に支障が出るほど対応に苦慮しているところも少なくありません。(P.174)

 このシニア層のクレーム客は、団塊の世代が多い。

 彼らは、今の日本の礎を築いた自負が強い。そして、仕事に打ち込んできた分、定年後に趣味がなかったり、会話を楽しむ友人たちが少なかったりする傾向にある。

 筆者の父もまさに団塊の世代。現役時代はいつも遅い時間まで仕事をしているか、仕事仲間と酒を酌み交わしているかのどちらかだったため、定年後は趣味らしい趣味もなく過ごしていた姿を覚えている。

 筆者の父のような人は、この世代には珍しくないのだろう。

 定年後にすることがなくなった夫が妻にべったりになり、それまでマイペースに暮らしていた妻がメンタルを病む「夫源病」という言葉も生まれたほど、一時期は「定年後の団塊の世代」が問題となった。

 この世代がシニアクレーマーに多いということは、「プライドは高いが、定年後にすることがなく、自分の存在意義を感じられなくなっている人」がシニアクレーマーになりやすいとも言える。

クレームを言うことで存在意義を確認

 なぜこの世代がシニアクレーマーになりやすいかというと、クレームを言うことで自分の存在意義を確認できるからだろう。

 山下氏は、次のような形でシニアクレーマーが生まれるのだと考える。

 シニアクレーマーも元々クレーマーなわけではない。例えば、本当に問題があること、間違っていることなどをコールセンターに電話をして伝えると「お知らせいただきありがとうございます」と感謝される。

 感謝されることで、社会の役に立っている自分を感じられるため、味を占めて何度も電話を入れるようになる。

 また、コールセンターや官公庁、自治体などのスタッフは、自分から電話を切ることはまずないので、30分でも1時間でも話を聞いてくれるのも彼らにとってはうれしいポイントだ。

 しかし、この対応に慣れると、相手からの感謝がなければ不満に感じ、言い返されると腹を立てるようになる。

「こちらは客だぞ!」と怒鳴り散らすことで、相手が萎縮すると、その様子から「まだ自分には威厳がある」と思ってしまうのだ。

 こうして、いつの間にかシニアクレーマーへと変化していく。なんとも困った話だ。

 このような現状がありつつも、山下氏は「ただ、当然のことながら、シニアのクレームからも有益な情報がたくさんもたらされます」と指摘する。

 シニアの寂しさやストレスは受け止めないようにしつつも、有益な情報はビジネスに生かしていく必要がある、ということだ。

 では、一体どのような対応をすれば良いのだろうか。

シニアクレーマーへの対応策

 山下氏が提唱するシニア対策は、大きくは次の2つだ。

 1.シニアクレーマーにかかる時間を短縮する
 話が長く、何度もクレームが続くシニアには、時間を区切って対応する。「次のお客さまの対応がございますので、5分で切り上げさせていただきます。回答が必要な件につきましては、後日連絡させていただきます」といった返答が有効。ただし、何度、来店等があっても必ず笑顔で迎えること。電話も同様。

 2.毎回のように怒鳴るシニアクレーマーは排除する
 怒鳴るシニアには、大きな声で対応し、「聞き間違いがあっては困りますので、会話を録音させていただきます」と告げ、プレッシャーをかける。

 これらの対応のように、お客さまとして丁重に扱いつつも、「あなたの要求には対応できません」と毅然と対応することも時には必要、ということだろう。

お客さまのタイプに合わせた対応を

 今回紹介したシニアクレーマーに限らず、怒鳴る客や理詰めの客など、お客さまのタイプ別に対応策を知っておくことはとても重要なことだ。

 タイプに合わせたクレーム対応をすれば、時短化できるし、対応するスタッフの負担も減る。

 きちんと解決できればお客さまにも満足していただくことができるのだから、双方にとって良いことだ。

 一方、クレームの中には金銭やうさばらしを狙った解決不能な「悪質クレーム」があるのも事実。そういった悪質クレーマーへの対応策も本書で紹介されているので、ぜひ一読することをお勧めする。

 さまざまなクレームへの対応策を知っておくことは、自分自身も会社のことも助けてくれるに違いないのだから。