「クレーム対応」とインターネットで検索すると、さまざまなスキルが出てくる。企業によってはマニュアルでクレームの対応方法を義務付けているところもあるだろう。しかし、それらを信じて対応したのに、お客さまの怒りは一向に収まることなく、大変な目にあった人もいるのではないだろうか。そんな人におすすめしたいのが、『クレーム対応 最強の話しかた』だ。著者である山下由美氏は、公務員時代にクレーマーによるファンクラブができるほどの対応スキルの持ち主。その経験を生かして現在はクレーム・コンサルタントとして活動中だ。本記事では、本書の内容をもとに、そんな山下氏から見た「クレーム対応のNGパターン」とその理由について紹介する。(構成:神代裕子)

クレーマー対応 最強の話しかたPhoto: Adobe Stock

多くの企業が勘違いしているクレーム対応

 お客さまが急に怒鳴り始めて、取り付く島もない。そんな時、あなたはどのように対応するだろうか。

 落ち着くまで話を聞く? とにかく笑顔で対応する? それとも謝り倒す?

 飲食店や小売業のような接客のある業種や、コールセンターのような苦情が寄せられやすい仕事の場合は、対応マニュアルが用意されているところも少なくないだろう。

 しかし、本書の著者である山下氏は「『お客さまのクレームにはこう対応すればよい』という間違った考えが現場や企業に数多くはびこっている」と指摘する。

 どういった対応がNGなのだろうか。

「実はNG」なクレーム対応

 山下氏が語る「クレームへのNG対応」を簡単にまとめると、次の6つになる。

 1.過剰にサービスする
 お客さまの心理としては、「クレームは得になる」と感じる。SNSなどで他のお客さまが知れば同じ対応を期待するし、悪質なクレーマーを量産するきっかけになりかねない。

 2.怒鳴る相手に冷静に振る舞う
 こちらが冷静に対応すればするほど、相手は「自分がこんなに大変な状況だと訴えているのに、それがわからないのか!」と感じてしまう。

 3.誤解を解こうと、正しい情報を伝えようとする
 怒っている状態のときに、あれこれ理屈を言われても、怒っている本人には反論や言い訳にしか思えず、怒りをヒートアップさせてしまう。

 4.ひたすら謝る
 多大な時間を要するし、クレームを言うことを諦めさせたとしても、相手の怒りを消せたわけではない。人によっては「自分の主張は正しいんだ」と誤解をすることも。

 5.「ほかではやってくれた」という言葉を鵜呑みにする
 一度要求を飲むと、既得権になる恐れがある。普通の人であっても、クレーマー化してしまうことも珍しくない。

 6.怒っている相手の話を傾聴する
 相手が感情的になっていたり、横暴な性格であったりする場合は逆効果。怒りが長続きしてしまって、時間の無駄になる。

 この6つの対応を見て、「自社でマニュアル化されている対応があった」「こういった対応が正解だと思っていた」という人も少なくないだろう。

 筆者も、もしもクレームを言われた場合は「まずは傾聴すべし」と思っていたが、まさか、傾聴することが怒りを持続させる原因になってしまうとは思ってもみなかった。

 では、なぜこれらのNG行動を良かれと思ってしまうのだろうか。

理論や理屈よりも、人は感情で動く

 その理由は、「クレームのお客さまに対する3つの大きな誤解がある」からと山下氏は指摘する。

そもそも人は理屈や理論だけで生きているわけではありません。同じくらい、いや、それ以上に感情に支配されて行動しています。まして客観性などあってないようなものです。(P.56)

 クレームを言っている客には、こちらが思うほど、理屈や理論は伝わらないということだ。

 このことを踏まえて、山下氏は「クレームという形で怒りを伝えるお客さまへの認識を改めるべく、次の3つの誤解を心に留めてほしい」と語る。

 誤解①:こちらの話した通りに伝わっている
「誠意を込めて話せば、お客さまに伝わるに違いない」と考えがちだが、想像以上にこちらの言葉は相手には伝わらない。なぜなら、単純な言葉のやり取りでも、人によって解釈がまったく異なるからだ。これがすれ違いの原因となる。

 誤解②:こちらの話が正論なら納得してくれる
 いくらお店や会社、自分に利があっても、お客さまが困っている気持ちにそぐわなければ、納得してもらえない。例えば、病院で予約している人を先に案内しても、「具合が悪くて病院に来ているのに何時間待たされるんだ!」と不満に思っている人に、「予約されている患者さんが先の案内になる」と伝えても、言われた側の気持ちが収まらない、ということだ。

 誤解③:納得してくれれば、引き下がってくれる
 多少気持ちにずれがあっても、「会社やあなたの立場はわかる」と、一定の理解を得られることがある。しかし、理解を得られたり、納得してもらったりしたからといって、素直に引き下がってくれるとは限らない。

 人の脳には、脳幹などの生存本能を司る「爬虫類の脳」と、それを取り囲むように、大脳辺縁系など快や不快といった感情に関係する行動をコントロールする「動物の脳」、その周りに人間が持っている大脳新皮質、言語や理論的思考を司る「人間の脳」がある。

 そして、人の行動のほとんどは「爬虫類の脳」と「動物の脳」が司っている。人は感情が動かなければ行動できないのだ。

 この3つの誤解を見ると、怒りに支配されていると論理的思考が働かないのがよくわかる。クレームを言う客に、理屈で接してはいけないのだ。

「クレーム対応の秘訣」は感情へのアプローチ

 これらの3つの誤解から考えられるのは、クレーム対応に必要なのは、「論理的な説明ではなく、相手の感情に響くアプローチ」ということだ。

 怒りは「二次感情」と言われる。不安や悲しみ、困惑といった一次感情の次に来るものであり、本人も自分の一次感情を理解していないことが多い。

 山下氏も、「クレームを言うお客さまは、不満や怒りはあるものの、具体的にどうしてほしいのかわかっていない人も珍しくない」と語る。

 そのため、「お客さまの怒りの原因や落としどころを探りながら対応する必要がある」と言い、その具体的な手法として、本書では「超共感法」を紹介している。

 詳しくは本書に譲るが、この山下氏の「超共感法」とは「怒っているお客さまに『そうなんです』(YES)と言わせる」だけ、というシンプルな方法だ。

 いまいち自社のクレーム対応マニュアルではうまくいかない、と感じている人は一度読んでみることをお勧めする。何かヒントが見つかるに違いない。