5月24日、記者会見する東洋建設の武澤恭司社長と大林東寿専務5月24日、記者会見する東洋建設の武澤恭司社長(左)と大林東寿専務 Photo:JIJI

海洋土木の東洋建設が、昨年に準大手ゼネコンのインフロニア・ホールディングスから買収提案を受けた後に、インフロニアに対して資本提携の解消を申し入れていたことが関係者への取材で分かった。加えて、東洋建設は直後に、インフロニアの傘下入りを決断していたことも判明した。インフロニアによる東洋建設の買収に割って入った任天堂創業家の資産管理会社は、合併会社のポストなどを巡って両者間に“密約”があったと主張しており、東洋建設の短期間での“変節”が疑念をさらに深めることになりそうだ。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

東洋建設がインフロニアに提携解消を提案
直後にインフロニアの買収提案受諾の“怪”

 昨年、準大手ゼネコンで前田建設工業を傘下に持つインフロニア・ホールディングスによる海洋土木の東洋建設への株式公開買い付け(TOB)を巡って新たな事実が判明した。

 新事実は、東洋建設がインフロニアから買収提案を受けた後に、インフロニアに対し、同社が持つ20%の東洋建設株の買い戻しを申し出ていたというものだ。加えて、東洋建設が直後にインフロニアの買収提案の受諾に転じたことも判明した。

 詳細を明かす前に、これまでの経緯を振り返っておこう。インフロニアは昨年3月に東洋建設に対し、非公開化を前提にしたTOBを提案。東洋建設もTOBに賛同し、インフロニアの傘下入りを決めた。

 そこに割って入ったのが、任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)だった。市場で株式を買い進めたYFOの持ち株比率は3割近くに達した。

 同年5月、YFOは友好的な協議を前提にTOBによる東洋建設の非公開化を正式提案。TOB価格はインフロニアの1株770円を大きく上回る1株1000円とした。

 結局、YFOの介入でインフロニアによるTOBは不成立に終わる。その後、YFOと東洋建設は複数回にわたり協議の場を持ったものの、議論は平行線をたどった。

 東洋建設は「(非公開化で)会社の存続が危うくなる」などと主張し、YFOは「東洋建設は具体的な協議を進めない」などと不満を募らせた。

 今年に入り、YFOは東洋建設に株主提案する方針を決定。東洋建設とYFOは6月下旬の定時株主総会で対決する(『【スクープ】任天堂創業家のファンドが東洋建設に株主提案へ、6月総会で「取締役選任」を要求』参照)。

 両者の対立が激化する中で、争点に浮上したのが“密約”の存在だ。密約とは、インフロニアによるTOBの際に、東洋建設の役員が買収後にインフロニアの取締役に就くという内諾を得ていたというものだ。

 YFO側は「意図的に開示しておらず、企業統治の観点で極めて問題だ」と指摘。併せて、「密約を取り交わしたとされる東洋建設の取締役がインフロニアTOBへの賛同を主導し、一般株主の利益を損ねた」と批判している。

 ダイヤモンド編集部は密約の存在をうかがわせるメモを入手し、内容を完全公開している(『東洋建設がインフロニアTOBで「密約」の証拠メモ入手!任天堂創業家との対立で深まる疑惑』参照)。

 今回判明した新たな事実は、密約の疑いをさらに深めることになりそうだ。次ページでは、インフロニアに資本提携解消を申し出た直後に、買収を受諾した東洋建設の“不可解”な対応の詳細を明らかにする。加えて、東洋建設の一連の動きがはらむ法令上のリスクについても解説する。