【スクープ】任天堂創業家のファンドが東洋建設に株主提案へ、6月総会で「取締役選任」を要求Photo:PIXTA

任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)が、海洋土木の東洋建設に株主提案する方針を決めたことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。6月の株主総会でYFOが推す取締役候補の選任を求める。YFOは昨年5月に東洋建設に株式公開買い付け(TOB)による株式非公開化を提案したものの、同社の経営陣との協議は難航してきた。このタイミングでYFOが株主提案に踏み切る狙いとは。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

任天堂創業家ファンドが株主提案へ
ファンドが推す取締役の選任を要求

 任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)は1月23日にも、海洋土木業界3位の東洋建設に株主提案する方針を決めたと公表する。

 YFOは自らが推す取締役候補の選任を求める。具体的な候補者の名前など株主提案の詳細な中身については今後明らかにする。6月に開かれる東洋建設の定時株主総会に向け、委任状争奪戦が繰り広げられる見通しとなった。

 YFOは任天堂を世界的企業に育てた故山内溥氏から受け継いだ資産をもとに、孫の山内万丈代表によって2020年に設立された。運用資産額は1000億円を超え、スタートアップや事業会社への投資を活発化させている。

 YFOと東洋建設の攻防の経緯を振り返る。事の発端は約1年前。2022年3月に準大手ゼネコンの前田建設工業を傘下に持つインフロニア・ホールディングス(HD)が東洋建設の完全子会社化を目指して株式公開買い付け(TOB)を実施した。東洋建設もTOBに賛同した。

 そこに割って入ったのがYFOである。インフロニアのTOB期間中に東洋建設株を買い集め、約27%の株式を保有する筆頭株主に躍り出た。そして、YFOは5月に東洋建設に対してTOBを正式提案。TOB価格はインフロニアの1株770円を大きく上回る1株1000円とした。「東洋建設の潜在力を高く評価した」。YFOの村上皓亮最高投資責任者(CIO)は6月のダイヤモンド編集部のインタビューにそう語っている(『任天堂創業家のファンド幹部が東洋建設TOBの理由を初激白「潜在力を高く評価」』参照)。

 提案を受けた東洋建設の取締役会は5月下旬に事実上の買収防衛策の導入を決め、徹底抗戦の構えを見せた。だが、6月の株主総会の前日に導入議案を撤回することになる。機関投資家の多くが「不適切な買収防衛策」などとして反対に回ることが見込まれたためだ。

 一方、YFOは歩み寄りの姿勢を見せた。YFOは東洋建設の取締役会の賛同がない限りTOBを実施しない意向を表明。同社の事前同意なく株式を買い増さないとの誓約書も提出したのだ。実際、YFOは東洋建設株を買い進めていない。

 その後、8月には東洋建設の取締役会とYFOの間で秘密保持契約が締結された。東洋建設の企業価値の向上策などについて両者で協議を進めるためだ。

 協議はかなりの回数にわたり開かれたもようだ。だが、YFOがTOB開始の前提とする取締役会の賛同は得られず、当初22年6月下旬としたTOBの開始時期は繰り返し延期されてきた。

 では、協議を深める考えを示していたYFOが一転、委任状争奪戦に踏み切る方針を決めたのはなぜか。次ページでは、YFOが株主提案に踏み切る理由と、その狙いを明らかにする。

 また、今回のように、正式な株主提案までに時間的な猶予がある“予告型”のものは極めて異例だ。株主構成などに影響が出ることも予想される。YFOの株主提案がどのような中身になる可能性があるかを示した上で、委任状争奪戦の行方も占う。