「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つのの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

ギャンブルに手を出すべきでない理由

 統計学の誕生によって、人類ははじめてリスクを管理できるようになった。合理的意思決定というのは、リスクのある状況において、データを統計的に解析することで、不利益を最小化しつつもっとも効用の高い戦略を選択することだ。これはビジネス用語で「リスクマネジメント」と呼ばれる。

 合理的意思決定理論はきわめて強力で、統計的世界の出来事については、どのような選択がもっともコスパとリスパが高いのか数学的な最適解を教えてくれる。だがそこには、以下の3つの条件を満たしていなければならないという限界がある。

① すべての事象を観察し、データ化できる。
② その事象のばらつきが正規分布(ベルカーブ)になっている。
③ 複数回の試行によって平均的な結果を実現できる。

 この条件を満たすのがギャンブルで、ラスベガスとウォール街をハックしたエドワード・ソープのブラックジャック必勝法(カードカウンティング)が有名だが、いまでは競馬や(野球、サッカー、バスケットボールなどの)スポーツベッティングでも、ビッグデータを統計解析することで大きな利益をあげられることがわかっている。アメリカやイギリスでは合法的な営利企業であるベッティング・カンパニーが高収入・好待遇を提示して、金融機関や技術系のメーカーと競って数学の学位をもつ優秀な学生を採用している。

ギャンブルに手を出すべきでない理由とは?Photo:Yume-fort / PIXTA(ピクスタ)

 競馬の場合、売上の20~25%が興行主の利益として差し引かれ、賭けは残りの取り分をめぐるゼロサム・ゲームになる。それにもかかわらずベッティング・カンパニーが安定した利益を出しているということは、誰かが巨額の損失によってその分を埋め合わせているはずだ。この〝資産提供者〟はもちろん、馬券で「夢」を買った善男善女だ。

 ここから、あらゆるギャンブルは、ゲームをハックする側に回るのでないかぎり、手を出すべきではないとわかる。とりわけオンライン・ゲームは、アルゴリズムによって、参加者の脳の報酬系を適度に刺激しつつ、有り金を巻き上げるようにつくられている。ポーカーのような対戦型ゲームでも、相手は深層学習によって強化されたAIボットである可能性が高く、人間のプレイヤーに勝ち目はない。

※この記事は、書籍『シンプルで合理的な人生設計』の一部を抜粋・編集して公開しています。

橘玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。