また、祖父母に子どもを預けている安心感からか、退勤時間後に真っすぐ自宅に戻らず、遊びに行ってしまう親もいる。もちろん、幼い子どもがいるから夜遊びに行ってはいけないという意味ではない。それぞれの家庭によって事情は異なり、ケース・バイ・ケースだが、中国の場合、その頻度は日本よりもかなり多い。

 農村の場合は、また違った事情がある。農村から都市部に出稼ぎに行く「農民工」の多くが、子どもを農村にいる祖父母に預けていく。出稼ぎは労働時間が長く、子どもを預けるところもなく、お金もないため、やむにやまれぬことなのだが、いったん出稼ぎに行けば、帰省できるのは年に1~2回だけだ。春節や国慶節などの大型連休のみで、それ以外は電話などで話す程度になり、親子のコミュニケーションは非常に少なくなる。

 こうした子どもは「留守児童」と呼ばれ、自殺や精神不安の要因となっている。しつけや家庭教育は祖父母の役目となるが、祖父母は年を取っている上、自分の子ではないため、また「親と離れている孫がかわいそう」という気持ちもあって、子どもに甘くなってしまいがちだ。

中国政府から“しつけに関する法律”が出された

書影『中国人が日本を買う理由』(日経BP 日本経済新聞出版)『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)
中島恵 著

 もちろん、祖父母に立派に育てられた子どもも大勢いることは言うまでもない。だが、都市部でも、農村部でも、さまざまな事情によって、子どもをしつけられない親、そして、しつけられたことがない子ども、というのが、かなり大勢いることは確かだ。そうした親子2世代、あるいは3世代にわたる問題の結果、「巨嬰症」や「熊孩子」があちこちに出現し、社会を乱す要因になっていると考えられる。しかも、前述の通り、それがいちいちSNSに投稿される時代になったことにより、さらに別の社会問題を引き起こしている。

 2021年、中国政府はしつけに関する法律「家庭教育促進法」を制定した。中国政府は、保護者が子どもの成績を重視するあまり、家庭で適切なしつけが行われていないことなどを問題視。法律に「高齢者や幼児を大切にし、勤勉節約に努めること、部屋の片づけを他人任せにしないこと」などを明記した。この法律に対し、家庭でのしつけにまで政府が介入するのか、といった意見もあったが、つまり、こういった法律が出るくらい、しつけや家庭教育の問題が社会全体で大きくなっており、政府にとって頭の痛い問題であることを表しているといえる。