“保険診療大国ニッポン”に、中国人の視線がにわかに注がれている。「ビザを取って会社を設立すれば、日本の福祉制度にあやかれる」などといった中国語の動画も拡散されているのだ。一方で、家族も呼び寄せられる「経営・管理ビザ」を使って診療を受けるケースも散見され、「横入りされる形で使われれば、保険診療制度そのものに大きな影響が出るのではないか」と危惧する声もある。(ジャーナリスト 姫田小夏)
経営・管理ビザを取得すれば、日本で医療が受け放題?
上海から一時帰国中の日本人Hさんは、高齢の母親の付き添いで大阪市内の総合病院を訪れていた。久しぶりに来た日本の病院だったが、そこでは小さな変化が起こっていた。
「王さーん」「張さーん」と看護師が呼ぶのは中国人の名前だ。Hさんは「中国人の患者さんがすごく増えた」と、筆者に感想を送ってきた。
最近、中国のSNSでは、ある動画が話題になっていた。日本の物件を扱う中国系の不動産会社が制作したもので、日本の健康保険制度をPRし、日本への移住に関心を持たせる意図を含むものだった。
動画は日本人の高齢者が犬を連れて散歩をするシーンから始まり、各地の医療機関が映し出される。中国人男性の声によるナレーションは、日本の健康保険制度を次のような内容で描写していた。
「50歳の移住ともなれば選択肢も多くはないが、日本には経営・管理ビザがある。会社を設立してこれを取得すれば、日本の福祉制度にあやかることができる。海外で発生した医療費も日本で手続きすれば戻って来る。大きな病気も各種減免措置があり、毎年のがん検査も無料でできる…」
この動画が投稿された直後から、Hさんの元には中国人の友人から「この動画は本当なのか?」という問い合わせが相次いだ。Hさんは「安い費用で高度な医療を受けられる日本の健康保険制度が、こんなに中国人に注目されていて驚いた」と語る。
中国事情に詳しいHさんによると、中国人が移住先を決めるのは、気候や治安のよさ以上に「その国で受けられる福利の厚さが重要な要素」になるという。優れた医療が受けられる日本滞在は、間違いなく彼らの選択肢に入っているというのだ。
一方で、この動画が危ういのは、経営・管理ビザで経営者になれば、あたかも日本の健康保険に“タダ乗り”してもいいという印象を中国人に与えてしまっていることだ。