中国で9月と10月は稼ぎ時…なのに大失敗した老舗肉まん店

天津狗不理 新本店の紙袋(筆者撮影)

 エンドユーザーを対象にする中国のビジネス世界では、「金九銀十」という言い方がある。金の9月、銀の10月という意味だ。一説には、9月と10月は農作物の収穫期で、農耕社会では、収穫した農産品を販売して現金収入を手に入れ、最も消費意欲が強い時期なので、このような言い方が生まれたのだという。

 より今日的な解釈もある。9月や10月といえば、中秋の節句や中華人民共和国の建国の日である10月1日から大型連休もあり、季節的にも涼しくなってくる時期だ。人々は外出や旅行、外食する意欲が強くなるため、旅行、小売り、飲食などの業界にとっては旧正月の春節に匹敵するほどの稼ぎ時であるという。

 しかし、この大事な稼ぎ時に大きくこけてしまった中国の老舗レストランがある。天津市の肉まん専門店「狗不理(ごうぶり)」だ。日本ではそれほど知られていないが、1858年創立の同店は、中国では有名な肉まん専門の老舗(中国では老舗企業を「中華老字号」と呼ぶ)で、最も歴史のあるブランドの一つとして認知されている。 

 ちなみに、店名の「狗不理」とは「犬も相手にしない」という意味。昔の中国では、へりくだったニックネームを子供に与えると、その子は丈夫に育つといわれ、犬など身近に存在する動物や物の呼び名を子供のニックネームにすることがあった。

 同社の創業者は、「狗子(日本語で犬の意味)」というニックネームで呼ばれていた。創業してから非常に繁盛して、肉まん作りと販売に精を出した創業者はそれ以外のことに一切構わず、呼ばれても応じなかった。そこから店は「狗不理」と呼ばれるようになったという。

 やがて清王朝の役人がこの狗不理肉まんを北京まで持ち帰り、西太后に食べてもらった。西太后がその美味を褒めたため、名声が一気に中国全土に広まり、 当時、魯迅と同じ時代の作家として知られた梁実秋も作品の中で狗不理肉まんのジューシーぶりを褒めたたえている。

 狗不理の肉まんは皮が薄く、肉餡(あん)がたっぷりと入っており、表面は18の折があるように作られているといわれる。貧しかった時代の中国では、B級グルメとして非常に珍重された。

 私は10代の頃、つまり文化大革命の時代、黒竜江省に飛ばされ、5年近く野良仕事をしていた。上海に帰省するとき、天津に途中下車してわざわざその天津の名物「狗不理肉まん」を買い求めに行ったほどだ。