子どもたちが生きる数十年後は、いったいどんな未来になっているのでしょうか。それを予想するのは難しいですが「劇的な変化が次々と起きる社会」であることは間違いないでしょう。そんな未来を生き抜くには、どんな力が必要なのでしょうか? そこでお薦めなのが、『世界標準の子育て』です。本書は4000人を超えるグローバル人材を輩出してきた船津徹氏が、世界中の子育ての事例や理論をもとに「未来の子育てのスタンダード」を解説しています。本連載では本書の内容から、これからの時代の子育てに必要な知識をお伝えしていきます。
母親が自然に気持ちを伝えることが大切
前回の記事で、子どもの「言葉の力」を育てるためには、赤ちゃんと親のコミュニケーションが大切だとお伝えしましたが、「赤ちゃんに何を話しかけたらいいのかわからない」という場合は、「実況中継」をしてください。
母親がしていることや考えていること、子どもがしていることを言葉に出して実況中継するのです。
「ママは今レタスを切っています」「レタスを並べてサラダをつくります」「○○ちゃんはお腹が減っているのかな?」「○○ちゃんが笑うと、ママも楽しくなるわ」こんな要領で実況中継してみてください。
話しかける言葉は一番「自然に気持ちを伝えられる言葉」で行なってください。
ただし、英語ができる子に育てたいから「英語で語りかける」のはやめてください。不得意な言葉で単調な語りかけをしても、子どもの言葉の力は育ちません。
一方、「方言」は構いません。標準語よりも「方言」のほうが気持ちを伝えやすければ、大いに「方言」で語りかけてください。
京都大学の正高信男教授は「母親語」といって、母親が子どもに対して語りかける時に特徴的にあらわれる、通常よりも高く、抑揚が誇張された、ゆっくりとした言葉で絵本を読んだ場合と、そうでない場合の赤ちゃんの反応を調べる実験を行ないました。
その結果、「母親語」で絵本を読むと、赤ちゃんは普通に読んだ時よりも2倍の注目を向け、情緒的な反応をより高く示すことがわかりました。
「母親語」は意識してつくるものではなく、赤ちゃんと交流する時、自然に口から出てくる言葉です。子どもの情緒を安定させ、言葉の力を育てるには、母親の語りかけが重要なのです。
子どもに英語を教える場合の、時期と方法
では、子どもに英語を身につけさせたい、という場合はどうすればよいのでしょうか?
上海などの都市が率先しているように、日本でも赤ちゃんに英語教育を施す家庭が多くなりました。
その際起きる論争が、「母国語である日本語を育てるのが先だ」「母国語がおぼつかない幼児に英語教育をすると日本語も英語も中途半端になる」といった問題です。
結論から言うと、日本国内で育てる場合には、英語を早く覚えさせても日本語がおかしくなることはありません。
私自身、自分の子どもを含め、アジアの子どもたちが言葉を身につけていくプロセスを見てきました。
母国語のほうが強い子、英語のほうが強くなる子、どちらも高いレベルで話せる子、どちらも中途半端になってしまった子、とさまざまです。
問題なのは母国語も英語も中途半端になってしまう「セミリンガル」や「ダブルリミテッド」と呼ばれる現象で、0~6歳くらいの子どもが英語圏で長期間過ごすことで、だんだん日本語がおかしくなり、英語もネイティブよりも劣っている、といったことが起きるのです。
これは子どもが言葉を身につけるべき段階で、母国語が十分身についていない状態で外国語環境に置かれることによって起こります。
このように、海外生活ではセミリンガルになる危険性は大きいですが、日本で幼児に英語教育を施したからといって、子どもの日本語がおかしくなることはほぼありません。
子どもの環境には日本語があふれていますから、週に数時間英語にふれたところで、日本語の発達に悪い影響はないのです。
また、子どもに英語力を身につけさせたい場合は「ネイティブの音声」を活用してください。
第一言語(母語)の発達には「信頼できる人とのコミュニケーション」が必要ですが、第二言語に関しては「機械音」でも育てることができます。
「マザーグース」や「ナーサリーライム」と呼ばれる英語のわらべ歌、ハロウィーンやクリスマスなど季節の歌、子ども向けの英語絵本、テレビの子ども向け英語番組の音声をかけ流しておくと、英語を聞き取る耳を育てることができます。
乳幼児期に英語の耳を育てておくと、小学校以降に本格的に英語学習を始めた時に習得が人よりも早く、発音がネイティブに近いというプラス効果をもたらしてくれます。
英語をかけ流す時のポイントは、BGM程度の小さな音量で、同じ内容を何度もくり返し聞かせること。
車の中、遊んでいる時、食事の時間など、時間を決めて、英語の音をたくさんインプットしてあげてください。