近年、「頭の回転の速さの象徴」としてお笑い芸人が多くの場面で活躍をしている。そんなあらゆるジャンルで活躍をし続けるお笑い芸人たちをこれまで30年間指導し、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも話題になった伝説のお笑い講師・本多正識氏による『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』が発刊された。ナインティナインや中川家、キングコング、かまいたちなど今をときめく芸人たちがその門を叩いてきた「NSC(吉本総合芸能学院)」で本多氏が教えてきた内容をビジネスパーソン向けにアレンジした『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』より、本文の一部をもとに仕事に関する本多氏の考え方をお届けする。
「仕事が速い人」と「仕事が遅い人」の決定的な差
「仕事が速い人」と「仕事が遅い人」、働いているとその両方と関わります。もちろん前者はどんな職場でも重宝されるでしょう。
今でこそ、私もキャリアが長くなったので仕事のスピードにそれなりに自信が持てるようになりましたが、かつては仕事が遅い方でした。締切を遅れてしまうことも多く、ほかの人が1時間でできることを2~3時間かけてやっていました。
もちろん、それを続けていては、いつか自分の仕事が減ると考えた私は自分の仕事の仕方と師匠方の仕事の仕方を比べてみることにしました。当時、師匠方は私よりも仕事量は多かったわけですから、仕事は遅くとも私の方が仕事ひとつひとつの質は上げられるはずです。だから、あとは「速さだけだ」と師匠方を観察していたわけですが、蓋を開けてみると、仕事の質でも師匠方の方が私よりも優れていたのです。
「速さ」と「質」の両方において、圧倒的な差を見せつけられた私は、自分と師匠方で何が違うのかと悩みに悩み、観察を続け、ひとつの答えにたどり着きました。私と師匠方の違い、それは「仕事に対する解像度の差」でした。どういうことか、少し見ていきましょう。
たとえば、漫才台本ひとつとっても、「舞台用の漫才ネタ8分」という依頼に対して、私はいきなりネタを書き出すのに対し、師匠方はまず最初に「どこで披露するのか」「お客さんはどんな人が多いのか」「お客さんの年齢層に合ったテンポはどれくらいか」「ほかにはどんなコンビが出るのか」など周辺情報をしっかりと整理してから台本を書き始めるのです。
「どんなネタにすれば良いのか」という方針が最初の段階で明確になっているため、ネタはその条件に合ったものを当てはめていくだけで形になります。加えて、書き終えてから「やっぱり違うな」とひっくり返ることもなく、少し書き始めるだけで、方向性が合っているかどうかの確認もできるのです。
このことに気がついたとき、はじめて自分が「速さ」も「質」も劣る理由がわかったのです。それ以来、私も仕事の依頼を受けたときは必ず周辺情報を揃え、「仕事の解像度」を上げてから本格的に仕事に取り組むようにしています。
きっと、これは料理で言う「仕込み」と同じで、準備段階をどれだけ丁寧に過ごせるかで、最後のクオリティやスムーズな進行は決まるのだと思います。
私は漫才作家でもあるので、漫才の話をしましたが、この話はビジネスでも同じだと思います。営業でも「どんなお客さんなのか」「これまではどんなところと付き合ってきたのか」「今どんなことに取り組んでいるのか」など、事前に情報を揃えれば揃えるほど、仕事はスムーズにいくでしょう。むしろそれもなく、「うちの商品どうですか?」と言ってもかつての私のようになってしまうのは言うまでもありません。
もうすでに実践されている方も多いと思いますが、もし仕事が遅くて悩んでいると言う方がいれば、「急がば回れ」の気持ちでまずは仕事の解像度を上げてみてください。