トリアージは医療資源の選択的分配の一例である。トリアージで選択的に分配される希少な医療資源は「救命措置」である。パンデミックにおいて必要とされる選択的分配の判断は、人工呼吸器やICUの病床など救命に関わる資源に限らない。ワクチン、PCR検査、医療用マスクなどの検査・予防に関わる医療資源も含まれる状況もありうる。

 パンデミックが倫理的指針を必要とする第2の理由は感染症という性質にある。

 感染症対策の基本の1つは感染拡大の抑制である。感染症の種類によって感染力には違いがあるのだが、感染力が強い場合、感染拡大を抑えるには人々の基本的な権利と自由の制限が必要になる場合がある。

 国によって違うが、罹患者の指定場所での隔離、移動の制限、私有財産の政府による強制使用・接収、飲食店や商業施設の営業規制、水際での入国拒否など、普段なら許されないような基本的な権利と自由の制限が行われる可能性がある。

 基本的な権利と自由の制限は疫学的に必要とされるかもしれないが、権利と自由の制限がどこまで許容されるか、そしてどうして許容されるのかも議論されなければならない。この議論には倫理的観点が不可欠である。

 これら2つの理由から、感染症パンデミック独特の対応策に関する倫理指針が求められるのである。