成長を阻害する組織的な障壁には、どのようなものがあるのか。逆に、成長にコミットした組織づくりに成功した事例として、ナイキはどのように成長領域を広げてきたのか。グループ経営戦略書の決定版『全社戦略』から一部をご紹介する。

【ナイキ】成長にコミットした組織づくりで事業領域とエリアを拡大Photo: Adobe Stock

 既存ポートフォリオ内での成長を成功させるための重要な前提条件は、成長を阻害する既存の組織的障壁を取り除くことである。このような障壁は以下に関連することがある。

・性能:商品やサービスの品質が悪い、マーケティングやセールス機能に弱点がある、部門間の連携が悪い。
・構造:高成長事業が低成長事業に埋もれている、インターフェース(仲介)が多すぎる、部門間のサイロ化により縄張り争いが発生している。
・プロセス:アイデアのスクリーニングや優先順位づけをするための標準プロセスがない、判定基準が明確ではない、意思決定が遅く複雑すぎる。
・指標とインセンティブ:視点が短期的すぎて、事業部門や部門を横断した成長や協働のための投資が抑制される、個々の失敗に対するコストが高すぎるため、従業員のやる気を高めることができない。
・文化とマインドセット:リスクを回避する、既参入企業として自己満足している、「ここで発明したものではない」症候群(独自技術症候群)である、目的意識と関心が欠如している、エンパワーメントが不足している。

 適切な態勢と労働条件を確保し、機能面でのベストプラクティスを確立し、適切なインセンティブを設定し、正しいプロセスと基準を定め、最も効果的な方法で成長への投資を配分することは、親会社の重要な任務である。

 クリス・ズークは、正しい方法で行うことの重要性を示した(Zook 2004)。彼は、成功している企業は、成長への障壁を取り除くだけでなく、成長に完全にコミットした組織を確立していることを示した。再現性のある成長の方程式、つまり、繰り返し適用できる成長の機会を発見し活用することは、重要な競争優位性となりうる。ズークはナイキを引き合いに出している。

 ナイキは、1963年のランニングシューズからスタートし、1985年、(マイケル・ジョーダンをメディアに起用し)バスケットボール・シューズに進出し、1986年には(ジョン・マッケンローを登用し)テニスへ参入、その後10年にわたりこの拡大モデルを繰り返しながら、野球、アメリカンフットボール、サイクリング、バレーボール、ハイキング、サッカーそして最後にはゴルフにも進出した(タイガー・ウッズと1億米ドルの契約を締結)。

 その過程で、製品ラインナップをシューズからアパレル、耐久消費財へと拡大した。同時に、地理的範囲を米国から世界的な流通モデルへと展開した。この再現可能な成長の方程式を繰り返し適用し、標準化することによる学習曲線効果の恩恵を得ることができた。また、投資家や従業員に明確な戦略を示し、成長を追求するうえでの足並みを揃え、卓越したスピードで新たな市場機会を特定して獲得できるようにした。