企業が成長をめざすとき、どのような事業に目を付けるべきか? 現状のポートフォリオに近いところから遠いところまで、チャンスは無限にあるが、どこにフォーカスするのが得策といえるのか。グループ経営戦略書の決定版『全社戦略』から一部をご紹介する。

隣接業界に成長機会をみつけた事例とは?Photo: Adobe Stock

 企業の成長を検討する経営者は、次の3つの基本的な質問に答えなければならない。

(1)どの期間で成長機会を探すのか(成長期間)。
(2)成長はどこからやってくるのか(成長の源泉)。
(3)特定された成長機会を実現する最善の方法とは何か(成長への道筋)。

 では、前回取り上げた(1)成長期間につづいて、今回は(2)成長の源泉について見ていこう。

成長の源泉をどこに求めるか?

 企業の成長に対する2つ目の大きな問題はどの方向に成長するかである。体系的な成長探索に着手する場合、以下の3つの領域で機会を探索することができる。

(1)中核事業の最大化
(2)隣接業界への拡大
(3)非関連分野での成長の探索

 中核事業の最大化においては、全社ポートフォリオに含まれる既存事業の未開拓の成長余地を深化させることになる。これには、例えば、大きなマーケティング活動の立ち上げ、新商品開発の促進、一流大学との研究を目的としたジョイント・ベンチャーの設立など、3つの成長ホライズンすべての機会が含まれることもある。隣接業界への拡大とは、既存の立場やケイパビリティを使用して、初めてだがこれまでと関連性のある活動分野、例えば、新しいカテゴリーや追加のサービス、新規顧客グループなどに参入することである。非関連分野での成長の探索には、企業の現在の活動とは関連性のない分野への成長機会が含まれる。これらには、現時点では存在せず開拓が必要な魅力的な新興市場だけではなく、その企業が新たに参入しようとする既存の市場も含まれる。

 一般的には、成長機会を探すのは中核事業から始めたほうがよい。市場での成功要因と競合に最も精通しており、既存の立場やケイパビリティを足場とすることができ、そのうえ実行にあたり直面する障壁が最も低い。多くの企業の既存ポートフォリオには、今ある商品で今の顧客により良いサービスを提供することから生まれる成長の可能性がいまだ活用されずに残っている。ベイン・アンド・カンパニーの研究によると、長期(10年以上)にわたって価値創造型の成長を維持している企業のほとんどは、強力な中核事業で市場をリードすると同時に、この事業を継続的に育み、強化し、拡大させている(Zook and Allen 2001)。

 既存ポートフォリオ以外の分野における成長のリスクはより高い。この場合、段階を変えるという非連続的な変化が必要となるため、中核事業を最大化する連続的な成長への取り組みとは異なる。多くの場合、既存の事業部門では実現できず、新規事業への参入や立ち上げが必要となる。もちろん、この線引きは必ずしも明確ではない。新規市場への参入が既存の事業部門から行われるべきか、あるいは新規の事業部門を創設することによって行われるべきかは議論の余地がある。重要なのは、このような成長の段階は、商品や市場、技術といった点で企業の事業範囲を大幅に拡大するということである。

 既存ポートフォリオを超える成長は、隣接分野から始めるべきだ。そうすれば、既存の事業や資産、ケイパビリティとの関連を保ちつつ、中核事業の強みを利用することができる。隣接分野での成長機会は、さまざまな場面で見られる。これらに共通しているのは、拡大に活用できる強力な足掛かりが現在の事業の中にあるという点だ。以下に、隣接業界へ拡大した例を挙げる。

 ・既存の顧客基盤に補足的な商品やサービスを追加で提供する。例えば、ディズニーはアニメーション映画からテーマパークへ、ペプシコは炭酸清涼飲料からスナック菓子へと拡大した。また、IBMはハードウェアを購入した顧客へのサービス提供に進出した。
 ・既存商品を改良して、新しい用途の提供や新たな顧客セグメントへの参入を図る。例えば、ジレットは女性用のかみそりやシェービング商品に進出し、クォンタスは格安航空子会社ジェットスター・エアウェイズを設立した。また、UPSはサービス部品の物流に乗り出した。
 ・既存の技術を使用して、現在のまたは新しい顧客セグメントに向けて新しい商品を開発する。例えば、アップルはコンピュータから小型音楽プレーヤーやスマートフォンへと手を広げた。ポルシェはスポーツ用多目的車分野に参入するためカイエンを開発し、アマゾンはクラウドベースのサービスに進出した。
 ・バリューチェーンの現在位置からの川上もしくは川下への統合。例えば、大手自動車メーカーはカーリースや金融サービスに乗り出し、ネットフリックスやアマゾンは映画やTVシリーズの制作へと進出している。非関連分野での成長の探索は、通常、ほかの2つの源泉が涸れてしまったときにのみ追求される最後の成長の源泉である。しかし、資産運用会社やプライベート・エクイティファンドなど、それを当然の成長方法としている企業もある。このような企業は有益な中核事業を持たず、主に金融投資的な合理性を追求するからだ。また、一部の同族会社はリスク分散のため、わざと非関連分野での成長に投資している。稀に、関連のない動きにより、極めて魅力的な短期間の市場機会のようなものを利用できることもある。ドイツの大手エネルギー会社RWEとVEBAがその一例で、この2社は1990年代末、新興の携帯電話通信市場に参入し、数年後にこの事業を売却しただけで相当な利益を手に入れた。最後に、非関連分野での成長案件を追求し、全社ポートフォリオを根本的に変えてしまった企業がいくつかある。その1つ、コングロマリットのプロイサグは旅行サービスに手を伸ばし、その後、世界屈指の観光事業グループTUIへと発展した。

非関連分野で成長を追求するのは?

 既存ポートフォリオを超えて成長を追求することは、特にそれが非関連分野での成長である場合に大きなリスクを伴う。企業が失敗するのは、すでに確立されている市場に手を伸ばし、既参入企業の抵抗や新手の競合の力を過小評価してしまうからである。このような企業は、その市場機会の魅力と利益プールの大きさを過大評価している。隣の芝生は青く見えるからだ。このような状況下では、戦線が引き延ばされて資源は無駄に消費され、複雑さが増し、経営陣の注意は分散され、既存事業と新規事業の両方に悪影響を及ぼす。また、新たな成長分野と既存事業とのシナジーは過大視されがちだ。表面的で技術的な類似性に目がくらんだり、顧客がワンストップ・ショッピングや製品バンドルに関心がないことを想定しなかったりするからだ。このような理由から、既存ポートフォリオを超えて隣接分野もしくは非関連分野での成長機会を識別、評価するときには、中核事業付近から成長分野の探索を開始し、十分な精査(デューデリジェンス)を行うことが賢明である。