多くの企業が取り組む「ESG経営」。社会での重要性は高まっているものの定着しているとは言いがたい。しかし、すべてのステークホルダーの利益を考えるESG経営こそ、新規事業の種に悩む日本企業にとって千載一遇のチャンスなのである。企業経営者をはじめとするビジネスパーソンが実践に向けて頭を抱えるESG経営だが、そんな現場の悩みを解決すべく、「ESG×財務戦略」の教科書がついに出版された。本記事では、もはや企業にとって必須科目となっているESG経営の論理と実践が1冊でわかるSDGs時代を勝ち抜く ESG財務戦略』より本文の一部を抜粋、再編集してお送りする。

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目標と戦略をつなげるビジネスモデルをつくる

 ESG/SDGs経営を真にサステナブルなものにするには、究極的には収益成長とサステナビリティを両立するビジネスモデルを考えていかなければなりません。無論、「言うは易し、行うは難し」ではありますが、企業自体のミッションがサステナビリティの実現(世界の持続可能エネルギーへの移行)を標榜している前述のテスラのような企業でなくとも、既存のビジネスモデルやそのポートフォリオを着実にESG/SDGs実現の方向に変革を進めている企業はたくさん存在します。

 ヒントは5つあります。

1.攻めのESG/SDGs経営―サステナビリティと事業戦略を融合させよう
2.サステナビリティ視点でポートフォリオを見直そう
3.守りのESG/SDGs経営―ステークホルダーを再定義し、お役立ちできることからはじめよう
4.まず隗よりはじめよ―内から外へ
5.最後は「攻め」と「守り」の両輪で

攻めのESG/SDGs経営―サステナビリティと事業戦略を融合させよう(Seizing)

 それでは、1つひとつ見ていくことにしましょう。最初のヒントは、「サステナビリティと事業戦略の融合」です。その意味するところは、サステナビリティの実現自体を事業戦略上の目的としてしまうことです。

 たとえば、通称Plant-Based(プラントベースド)と呼ばれる大豆たんぱくをベースにした植物肉の製造・販売で急成長を遂げているインポッシブルフーズは、牛肉消費を植物性たんぱく商品の消費に置き換えることで、牛の肥育に伴う温室効果ガスの削減や水の消費量を大幅に減らし、地球全体で環境負荷を下げていくことを会社のミッションとしています。

 また、アウトドア製品の製造・販売で有名なパタゴニアも、近年食品事業に進出し、土壌の再生に役立つバッファローを使ったジャーキーや、ケルンザと呼ばれる多年生植物を利用したビールを販売することで、事業成長と使用する原料を通じた環境再生を目指しています。

 テスラも、再生可能エネルギーの生産/蓄電をセットにした電気自動車の販売を拡大することで、事業成長そのものが、地球規模での化石燃料使用削減につながる形となっています。このモデルは、比較的設立が新しく、設立当初の会社のミッション自体がサステナビリティの実現となっているケースでよく見られます。

 このようなケーススタディを聞くと、会社のミッション自体がサステナビリティの実現となっておらず、すでに既存事業を抱えてしまっている場合はどうするのか、と疑問を持たれるかもしれません。その場合も、企業のミッションそのものから見直しを行っているケースが見られます。それがネスレです。

 ネスレはNHW(Nutrition、Health、Wellness)企業と呼ばれる栄養・健康・ウェルネスを消費者に提供する企業としてビジネスモデルを転換し、他社製品より美味しいだけでなく、塩分、脂肪分、糖分を減らした栄養基準を設定することで、消費者の健康改善と味覚向上を同時に目指したことは紹介の通りです。

 味覚と健康維持を同時に訴求する製品群を持つことで、事業成長とサステナビリティの同時実現を図った形です。

 ここでは攻めのESG/SDGsという記述にしていますが、いずれも製品力の強さそのものは前提にしたうえで、さらにサステナビリティの実現を消費者に対する価値として付加することで、競争優位性の構築を目指した形です。