effrey PfefferPhoto courtesy of Jeffrey Pfeffer

「大物ほど謙虚だ」「成功したいなら誠実であれ」といった世の中にあふれる教えにノーを突きつけ、「権力の真実」を解き明かそうとするのが、米スタンフォード大学ビジネススクールのジェフリー・フェファー教授だ。「世界で最も偉大な経営思想家」(「The Thinkers50」)に選ばれたこともある、組織行動学の権威である。フェファー教授によれば、権力者の多くは「謙虚さ」とは程遠く、「成功すれば(ほぼ)すべてが許される」という。出世したいなら、自分の殻を脱し、ルールを破り、自己宣伝に努め、謝罪はするな――。『出世 7つの法則』(日本経済新聞出版、櫻井祐子訳)の著者であるフェファー教授が、本音の成功論を語る。(ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)

「権力」という言葉は人を不快にする
だからこそあえて書いた

――最新作『出世 7つの法則』の出版で、権力に関する著書は5冊目ですね。もう権力関連の本は書かないつもりだったということですが、なぜ、また書こうと思ったのでしょうか?

ジェフリー・フェファー(以下、フェファー) 何かを成し遂げて世の中を公正なものに変えるには、権力と影響力が不可欠だ。しかし「権力」という言葉は人を不快にする。多くの人々が口にしたくない言葉だからこそ、あえて書く必要があると思った。

 1979年、ハーバード・ビジネススクールのロザベス・モス・カンター教授は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌(7月号)への寄稿文を次のような一文で始めた。「『権力』は、アメリカ最後の禁句である」と。

(注:寄稿文は次のように続く――「権力を持つ人々は、それを否定する。権力を求める人々は、それを渇望するそぶりを見せたがらない。そして、権力を手に入れるために権謀術数をめぐらせる人々は秘密裏に動く」)

「権力」は組織における最後の「禁句」である――。これは実に重要な考え方だ。

 ソーシャルメディアの普及などによって、世界は、より民主的になり、権力のヒエラルキーは昔ほど強固でなくなったという主張が大手を振るっている。そうした主張に真っ向から反論するために新作を書いた。時代が変わっても権力の神髄は不変だということを訴えたかった。

――権力に関する研究のほとんどが、人々のウケはいいが「あまりにも楽観的で、現実とかけ離れている」と指摘していますね。権力者の多くは謙虚さや慎み深さとは程遠い、と。

フェファー 世間というものは、自分たちが信じたいことや、「こうあってほしい」と思うことを信じるのだろう。権力に関する世の中の研究は、現実をまったく反映していない。

 例えば、トランプ前大統領や、(5月の選挙で勝ち、長期政権を続ける)トルコのエルドアン大統領、昨年、フィリピンの新大統領になったフェルディナンド・マルコス・ジュニア氏(独裁的な政治を行ったフェルディナンド・マルコス元大統領の息子)などを見れば、一目瞭然だ。米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)も、米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス前CEO・会長もそうだ。

 彼らは「慎み深い人」ではない。にもかかわらず、なぜ世間は、現実と似ても似つかないことを言うのか、理解しかねる。

――権力には、教授が「The Magic Number Seven(マジックナンバー7)」と呼ぶ、次の7つの法則があるのですよね。

法則1「自分の殻を抜け出せ」
法則2「ルールを破れ」
法則3「権力を演出せよ」
法則4「強力なパーソナルブランドを確立せよ」
法則5「ネットワークをつくれ」
法則6「権力を活用せよ」
法則7「成功すれば(ほぼ)すべてが許される」