ロシアのウクライナ侵攻から1年余り。民主主義研究の世界的権威として知られ、米スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローで、同大学政治学・社会学教授でもあるラリー・ダイアモンド氏によれば、民主主義体制と独裁体制、いずれにも転びうる「揺れる国家」ウクライナをロシアから守るために、さらなる支援が必要だという。民主主義にとって、ウクライナ敗戦と台湾有事が「最大のリスク」だと話す同氏。中国の台湾侵攻はあるか? 米民主主義の行方を決める次期大統領選の見通しは? 『侵食される民主主義:内部からの崩壊と専制国家の攻撃』(勁草書房、市原麻衣子監訳)の著者でもあるダイアモンド教授に、前編に引き続き、話を聞いた。(ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)
民主主義と独裁体制のどちらにも転びうる
「揺れる国」ウクライナ
――教授は著書『侵食される民主主義』の中で、ウクライナは典型的な「swing state(揺れる国家)」だと書いています。「真の民主主義と法の支配に向けて前進することもできるし、腐敗したオリガルヒ(※旧ソ連解体を契機に、ロシアなどで台頭した新興財閥)に寄生されたまま、拡大主義のクレムリン(※旧ソ連政府あるいは旧ソ連共産党を指す語)に取り込まれてしまう可能性もある」と。
ラリー・ダイアモンド(以下、ダイアモンド) 「揺れる国家」とは、いずれの方向にも変わりうる国という意味だ。つまり、民主主義と独裁体制のどちらにも転びうる。「揺れる国家」の多くは、独裁体制に転じる可能性があるだけでなく、ロシアか中国、いずれかの勢力下に入る可能性もある。
だからこそ、そうした「揺れる国家」の民主主義をテコ入れし、自由民主主義の規範を順守するような、より広範な国家体制への移行を後押しすることに意味がある。
――同書には、こうも書かれています。「改革に向けた国民の圧力を築くために、ウクライナの市民社会は、欧米からの資金的・技術的支援を必要としている。また、ロシアの軍事侵略に対抗するために、防衛用軍事装備(対戦車ミサイルなど)も必要である」(下巻第11章)と。
米国は何年も前から、世界におけるプレゼンスの低下を指摘されてきました。しかし、今回は強い指導力を発揮し、大規模なウクライナ支援を続けています。何が米国をそうさせているのでしょうか。
ダイアモンド まず、断っておきたいが、原著刊行は2019年6月で、ロシアのウクライナ侵攻前だ。現況は、執筆時とは大きく違っている。ウクライナがロシアによる全面的侵攻を受けている今となっては、もっとウクライナへの支援が必要だ。ウクライナは武力侵略と戦っているのだ。
西側諸国の支援は、世界中で民主主義を求めて必死に闘っている人々を後押しするためのものだ。これは非常に重要なことだ。
――ウクライナ支援をめぐる西側諸国の団結は、民主主義にとって何を意味するのでしょうか。
ダイアモンド 明るい兆しだと思う。