「知られざる宝物」を発掘する超ベテラン投資家が、銘柄選びで大切にする「たった1つのルール」『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第7回は、ベテラン投資家の「マイルール」を紹介する。高井が「投資は推し活」と語る、そのココロは?

投資は「推し活」

 30億円を一気に投じたゲーキチ株は見事に1割も値上がりし、主人公・財前孝史は上々の投資デビューを飾った。有頂天の財前の背後に、再び部室に巣くう悪霊のような「投資の神様」が姿を現し、「調子に乗るなあっ!」と警告する。主将の神代圭介も、一段の値上がりを待つ構えの財前に「さっさと売っちまえ」と指示する。

 神代は、勉強なんてする前に「四の五の言わずに、まず自分の好きな会社の株を買う」のが投資の最初の基本だと説く。市場の分析や有望銘柄の選別から入ると、いつまでたっても手が動かないという。

 あえて流行り言葉を使えば、個別株の長期投資は、お金が増えるかもしれない「推し活」だ。製品やサービスを愛用している。経営者が魅力的だ。環境や人権に配慮した企業理念に共感する。好きなタレントをCMに起用している。理由は何でも良い。この企業は「推せる」と思った会社にお金を託す。

 ビジネスが好調で株価も上がれば「推し」の活躍を喜べる。業績や株価が伸び悩んでも、「推し」ならば、今は不遇な時期だと我慢できる。むしろ応援する気持ちが強まるかもしれない。「推し活」は普通、やればやるほどお金が減るものだが、投資ならお金が増える可能性がある。

 お断りしておくと、私自身は個別株投資の経験はない。私は6月に退職するまで28年間、日経新聞に在籍していた。インサイダー情報に触れる機会がある記者は、投資に厳しい制限がある。ただ、記者時代も「長期投資してみたい」と思う企業はたくさんあった。ちなみに年季の入ったゲーマーとして宮本茂氏を崇拝しているので、永遠の「推し」は任天堂だ。

ベテラン投資家はウインクした

 最近、この「投資は推し活」というフレーズを長年の友人のベテラン投資家に話したところ、わが意を得たりという反応が返ってきた。そのベテランは「先日、投資家仲間と飲んでいて、『いまどき長期投資なんて簡単だよな、好きな会社を何社か選んでおいてNISA口座で買って、株価がドーンと下がったら、黙って買い増しすればいいんだよ』という話になった」と笑った。

 似たような発想ながら、もう少しクールな超ベテラン投資家にも会ったことがある。その欧州系運用会社のトップは、先進国の小型株や新興国の企業から「知られざる宝物」を発掘して、企業の成長と歩調を合わせて果実を得るのを持ち味としていた。銘柄を選ぶ基準は、今後10年、20年でどれだけ成長できるか。その時点の株価の割高・割安や投資タイミングはほとんど考慮しない。

 その投資家は、超長期志向ながら、保有株が急騰して株価が数倍になったら比較的短期で売ってしまうケースもあると話してくれた。投資する時点で「遠い未来の適正株価」を算出していて、そこに届いたら売ると決めているからで、「一緒に進むはずだった旅がちょっと早めに終わったな、と考えて満足します」とウインクした。

 さて、「株は法則でやれ!」という神代のアドバイスの真意は何か。ゲーキチ株の早々の利益確定売りを勧めるアドバイスに、財前はどう応じるのか。