お金で困ることのなさそうな資産家も、実はとんでもないお金のトラブルに見舞われています。特集『富裕層の「お金の大失敗」』の#4では、東京国税局の資産課税担当として多くの資産家を目にしてきた著者が、お金持ちの家族の間で起きた予想外なドラマを紹介します。(元国税専門官 小林義崇)
夫から妻へ土地が贈与?贈与税の申告漏れを指摘したら…
東京国税局の資産課税担当として、私は働いてきました。
資産課税とは、相続や贈与、不動産・株取引にかかる税金を主に扱います。要は「資産家にかかる税金」の担当なので、お金持ちに接する機会が多くありました。
私は決して裕福ではない家庭で育ったので、お金持ちを「うらやましい」と思う瞬間は何度もありました。一方で「資産家だからこそ遭遇するお金のトラブル」も間近で目撃し、大きな痛手を被るお金持ちにもたくさん出会いました。
そこで、前回(#3『数千万円だましとられた富裕層…元国税職員が心を鬼にして「追徴課税」したワケ』)に引き続き、私の国税職員の経験から印象に残っている失敗事例をご紹介します。
国税職員が最も忙しいのが確定申告シーズンです。それが終わると、申告誤りや申告漏れが想定される人に連絡を取って、税務調査を行います。あるとき、登記上は夫から妻へ土地が贈与されているのに、贈与税の申告のない案件がありました。
贈与税がかかるのは受贈者(もらった人)ですから、その案件は妻が贈与税の申告を怠ったことが想定できます。そこで私は女性に連絡を取り、税務署で話を聞くことになったのですが、なんとも意外な展開になりました。