税金はかからないと信じていたのに、違っていた――。そのような問題が現実になってしまった。スタートアップを中心に近年導入が広がっていた信託型ストックオプションに関し、新たに国税庁が示した見解が物議を醸している。どのような問題があり、どう対処すべきかを、ストックオプションに関する申告漏れの調査経験がある元国税専門官のライターが解説する。(元国税専門官 小林義崇)
「税金はかからない」と思っていた企業、
「それは誤解」という国
2023年2月の衆議院の予算委員会でなされた質疑の内容が、SNSなどで話題になりました。
スタートアップを中心に2017年頃から導入が広がっていた「信託型ストックオプション」に関する税務上の取り扱いについて、企業側と国側で見解がズレていることが示唆されたからです。
そして、5月29日に国税庁・経済産業省が合同で説明会を実施し、信託型ストックオプションを導入していた企業や、その社員の一部に追加納税などの問題が生じることがついに明らかになったのです。
具体的にどのような見解のズレがあったかは後ほど詳しく解説しますが、簡単に言えば「企業側は税金がかからないと信じていたのに、国は税金がかかると考えていた」という問題が起きたのです。
ただ、税金の取り扱いが変わって税負担が増えることは珍しいことではありません。また、予告があった上で法改正がなされるため、事前に対策を考えることができます。
しかし今回のケースは、現状の法律の解釈について企業側と国側で異なっていたことが、ある程度時間がたってから判明したという珍しい形です。日経新聞の5月26日の報道によると200億円規模の税負担アップにつながる試算もあるとのことですから、影響は小さくありません。
私は、東京国税局の職員だった頃にストックオプションに関する申告漏れを集中的に調査していた時期があります。その経験を踏まえて、ここからストックオプションの税制や今後起きると想定される問題、対応策を解説します。