米アリゾナ州の半導体工場の建設現場で発生している労働争議は、米国が国内のチップ製造の再生に乗り出す中で直面している困難な課題の一つを表している。新たな需要を満たす十分な数の熟練労働者の確保だ。

 半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、400億ドル(約5兆8400億円)を投じてアリゾナ州フェニックスにチップ製造工場2カ所を建設中で、530億ドルが割り当てられた半導体・科学法(CHIPS法)に基づき、最大150億ドルの税額控除と補助金を得られる見通しだ。これについては、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が以前報じた。

 TSMCのプロジェクトは、CHIPS法の礎になることが期待されている。同法は、米国の輸入チップへの依存を軽減し、中国に対抗できるよう国内生産を強化することを狙いとしている。

 この目標の達成は、世界最大のチップメーカーを米国に誘致するだけでなく、新工場の建設・運営に必要な技術的専門知識を持つ人材を採用・開発できるかどうかにかかっている。しかしTSMCによると、アリゾナでは熟練労働者の不足で建設が遅れており、その挽回に向けて台湾から労働者を呼び寄せようとしている。

 TSMCの劉徳音会長は7月20日の4-6月期(第2四半期)決算会見で「特殊な専門知識(中略)を持つ熟練労働者の数が不足しており、特定の難題に直面している」と述べた。

 劉氏のこの発言が、アリゾナの労働組合から激しい非難を浴びている。海外から労働者を連れてくることは、半導体業界で国内雇用を創出するというCHIPS法の重要な目標の一つを損なう、と労組は主張する。

brendan smialowski/Agence France-Presse/Getty Images TSMCの半導体製造施設で働く作業員(2022年、フェニックス)

 アリゾナ建築・建設労働組合協議会は連邦議員宛ての書簡で「TSMCは米国の労働者に対する敬意を欠いている」と述べ、台湾人労働者へのビザ(査証)発給を阻止するよう求めた。

 同協議会は、配管工、電気工、金属工などを代表する14の労働組合の傘下組織。広報担当のブランディ・デブリン氏によると、現在フェニックスの工場で働く約1万2000人の労働者の25~30%が会員だ。

 TSMCは、意図していたのは労働者を一時的に呼び寄せることであり、アリゾナの労働者を雇用から除外するつもりはないと説明している。

 「少数の経験豊富な専門家に現地の人たちと経験を共有し、知識を交換してもらうことで、米国のサプライチェーンを現地化するという大きな目的を実現していく」とTSMCは述べた。

 事情に詳しい関係者らによると、TSMCは約500人の臨時労働者のビザを求めている。

 米国務省の報道官はその人数が正しいかどうかには言及しなかったが、「さまざまな企業や子会社を代表する複雑な半導体製造工場を建設・運営するのに必要な技能を持つ従業員が、迅速かつ効率的に米国ビザを申請する機会を得られるようにするため」当局者がTSMCと協力していると述べた。

 バイデン政権はCHIPS法を看板政策の一つとみなしており、同法の推進者はアリゾナ建築・建設労働組合協議会の苦情に迅速に対応した。

 民主党のケイティ・ホッブス・アリゾナ州知事は9日、建設現場を訪れ、TSMCと自主的合意を交わしたと発表。労働者の安全を確保するため、州当局が検査と訓練を強化できるようにしたと明らかにした。また、建設などの訓練を受ける実習生の数を倍増させることを約束した。

 「アリゾナは労働力の育成にたゆまず取り組んでいく」と同氏は述べた。

 業界幹部やエコノミストは、世界の半導体供給を支配するアジアのチップメーカーを米国が誘致する上で、国内のチップ業界労働者の不足は大きな障害になると指摘する。アジアのメーカーは、自国に豊富な熟練労働者がいる上、製造コストも米国より低い。

 調査会社オックスフォード・エコノミクスの米州コンサルティング責任者ハミルトン・ギャロウェイ氏は「CHIPS法は、まさに意図していた成果を生んでいる。つまり、新たな投資の誘致と米国の生産能力の拡大だ」とし、「次はその成果を支えるために、労働力ニーズと人材という難題に対処する必要がある」と述べた。

 オックスフォードと米半導体工業会(SIA)が実施した調査によると、CHIPS法が事業拡大に拍車をかけ、半導体業界は2030年までに約6万7000人の労働力不足に陥る見通しだ。そのうち39%はおおむね2年制の学位を持つ技術者、35%は4年制の学位を持つエンジニアなど、残りはそれ以上の学位を持つ人材だ。

 バイデン政権当局者は、アリゾナの労働争議は、現在の半導体労働者不足を反映したものではないと話す。

JONATHAN ERNST/REUTERS TSMCのフェニックス工場を訪れたジョー・バイデン米大統領(2022年12月)

 ホワイトハウスのロビン・パターソン報道官は「世界中の企業が米国に投資しているのは、わが国には世界最高のエンジニア、科学者、労働者がいることを知っているからだ」と指摘。大学やコミュニティーカレッジ(地域住民向けの2年制大学)、企業は、増大する人材需要に対応するために半導体労働者の訓練を拡大していると述べた。

 組合員は以前、TSMCがテキサス州やルイジアナ州から非組合員労働者を呼び寄せ、アリゾナのプロジェクトに従事させていることについて、ソーシャルメディアで不満を表明していた。TSMCの安全基準やコミュニケーションスタイルにも疑問を呈している。

 米国が必要とする最先端チップのほぼ全てを供給しているTSMCにも不満がある。米国の高い建設コストや、CHIPS法によって中国の既存施設の拡張が制限されていることなどだ。

 アリゾナの状況を受け、TSMCは現在、外国人労働者の活用だけでなく、安全や訓練についても契約労働者と定期的に話し合っていると述べた。

 労働組合広報担当者のデブリン氏は、同社が定期的な協議を約束したことは、懸念を緩和するのに役立つと指摘。「これらの問題の一部に対処できるプロセスが整備されたと感じている」と述べた。

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