30歳代前半は母親が自身の中学、高校時代の友人や職場、地域の知り合いを通じて見つけてきた女性と見合いを10数回重ねたものの、交際に至ることはなかった。「見合いをしている最中は、もしかしてうまくいくかもしれないと思う時もあるんですが、相手からお断りの返事ばかりで……」と回数を重ねるごとに自信をなくしていく様子が見て取れた。
当時は男性でも30歳代半ばを過ぎれば、見合いそのものの成立が難しかった。そのため、2011年、37歳の時に母親の勧めで結婚情報サービスに入会したことで、いったんは明るい兆しが見えてくる。
入会から半年が過ぎた頃、10人目の見合い相手と「交際」へと進むのだ。ここでいう「交際」とは、入会していた結婚情報サービスのしくみで、初回の見合い終了後に双方が承諾した場合に連絡先を交換して交流すること。半年後に「正式交際」に進むかどうかを決めるまでは、同時に複数の相手と「交際」してもいいシステムだったが、高井さんは「交際」相手がいる間は他の活動を停止し、相手の女性との交流に専念した。
ところが、「交際」も3カ月が過ぎ、彼女を自宅に招いたところ、母親が気に入らず、彼のほうから交流を終了してしまう。その後も、2人の女性と「交際」したが、いずれも母親の快い了解がもらえずに、「正式交際」に進む前に関係が終わってしまう。母親が相手の女性を受け入れなかった理由は、『気がきつい』『思いやりがなさそう』『自分を持っていない』など、一貫していなかったという。
結婚相手を見つけることができないまま、2年間で結婚情報サービスを退会する。13年、退会直後のインタビューで、39歳の高井さんはそれまで秘めていた苦しい心境を明かした。
「母親には逆らえないんです。母のために結婚しないといけないという気持ちになったこともありますし……。でも、この年になって、母の言いなりでいいのかとは思うんですが……」
これを境に、結婚相手探しをやめてしまう。
介護を「他人に任せられない」
婚活を自らやめてしまった高井さんは、落ち込むどころか、結婚しなければならないという重荷が取れ、気持ちが楽になっているように見えた。勤務する会社では課長級に相当するプロジェクト・リーダーを任され、仕事はますます忙しくなっていたが、それでも週末は趣味の鉄道に時間を費やし、2、3カ月に一度は母親と一緒に泊りがけで秘境の鉄道巡りをするなど、以前よりも生活が充実しているようだった。