子どもたちが生きる数十年後は、いったいどんな未来になっているのでしょうか。それを予想するのは難しいですが「劇的な変化が次々と起きる社会」であることは間違いないでしょう。そんな未来を生き抜くには、どんな力が必要なのでしょうか? そこでお薦めなのが、『世界標準の子育て』です。本書は4000人を超えるグローバル人材を輩出してきた船津徹氏が、世界中の子育ての事例や理論をもとに「未来の子育てのスタンダード」を解説しています。本連載では、船津氏のこれまでの著書から抜粋して、これからの時代の子育てに必要な知識をお伝えしていきます。

世界標準の子育てPhoto: Adobe Stock

自分を律することを早く身につけた子が伸びる

 優秀な子どもが必ず身につけている習慣は、「衝動をコントロールする習慣」です。

 衝動をコントロールするとは、むくむくと湧き上がってくる感情の変化に気づき、それを上手にコントロールすることです。自分を律する習慣といってもよいでしょう。

 たとえば、ダイエット中なのにケーキに手を出してしまう。

 やらなければいけないことを先送りしてしまう。運動しなければいけないことがわかっているのにゴロゴロしてしまう。

 もう一杯くらいいいだろうと飲み過ぎてしまう。少しのことですぐカッとなって思ってもいないことを口に出してしまう……。

 この習慣は、大人でも身につけるのが難しいものです。難しいことだからこそ、この習慣を早くから身につけることは大きなアドバンテージになります。

 行動学の研究者、マーシャル・リンデン氏とマシュー・アクリモント氏が、The Journal of Nervous and Mental Diseaseに発表した2005年の研究によると、衝動性は大きく4つのタイプに分類できると言います。

・切迫感:何でも今すぐやらないと気がすまない
・計画性の欠如:考えたり計画したりせずに行動する
・忍耐力の欠如:長い時間がかかるタスクをすぐにあきらめる
・刺激・快感の追求:刺激や快感が得られることばかりをやろうとする

 今やるべきことに集中できずに他のことに心を奪われてしまうと人生が前に進まないのです。

 これを大人になってから改善しようとしても(不可能ではありませんが)長い時間と多くの努力が必要になります。

 子どものうちに身につけることで、より賢明な選択をしやすくなるのです。

 では何をすればこの習慣が身につくのでしょうか? これには大きく3つの方法があります。

1. 衝動の存在を気づかせる

 まずは人には「衝動がある」ということを理解してもらうことです。

 たとえば宿題を終わらせなければならないのにゲームに手を伸ばしてしまう子どもには、「なぜ宿題をしなければいけないのに、ゲームをしてしまうのか?」と質問してください。

 すると「宿題が面倒だから」「宿題が難しいから」あるいは「ゲームがやりたいから」など、自分の気持ちについて考えることができます。

 そして「宿題が難しいからゲームをしているんだ」「このゲームを早く攻略したいのだ」という理由に気づくのです。

 すると次にゲームに手を伸ばしそうになった時、「いけない!」と立ち止まることができるようになります。

 宿題が難しくて苦戦しているのであれば両親が勉強を手伝ってあげてください。

 ゲームが大好きでつい手が出てしまうという場合は、ゲームのない場所(居間や食卓)で勉強するなどのルールを親子の話し合いによって決めます(親が一方的に決めてはいけません)。

2. 衝動をコントロールする意味を説明する

 続いては、衝動をなぜおさえなければいけないのか、その意味を子どもに理解してもらいます。

 怒ったり、不安になったり、焦ったり、ふざけたり、そうした衝動が起きることは人間の生理であり、悪いことではありません。

 いけないのは、その衝動に振り回されてしまうことです。

 相手が子どもだからと思わずに「なぜ衝動をコントロールしなければならないのか」きちんと説明してあげてください。

 たとえば、「友だちがゲームをシェアしてくれなかったらどんな気持ちになるか」「自分の話を最後まで聞いてくれなかったらどう感じるのか」「失敗をバカにされたらどう思うのか」と質問します。

 すると子どもは「悲しい気持ちになる」「嫌な気持ちになる」と他者の立場から考えることを理解できるのです。

 衝動で行動することによって他者にどんな影響を与えるのか、それが自分にどう跳ね返ってくるのか、それらを考えることをしつこく教えてあげてください。

 習慣は1回や2回の訓練では身につきません。何度も繰り返し質問することで意識できるようになっていきます。

3. 衝動をコントロールする方法を教える

 「Don't forget to breathe!(ちゃんと呼吸をしなさい!)」

 ……衝動に駆られた子どもに、親や教師がこのように声をかけることがあります。

 子どもはハッと我にかえり「スーハースーハー」と深呼吸を繰り返し、呼吸を整えます。

 このように、「衝動が起こった時にはゆっくりと3回深呼吸してね」など、感情を落ち着かせる方法を教えてあげることが3つ目の方法です。

 そして落ち着いたら、衝動の結果がどうなるのかを考えてから行動(言動)するように繰り返し子どもに言い聞かせます。くどいようですが、1回や2回では身につきません。

「衝動が起こりそうになったら深呼吸」としつこく言い続けることが大切です。

心から納得しなければ、人は素直に学べない

 このように対応することで、子どもは衝動をコントロールする術を身につけていくのですが、何よりも、これらを定着させるには親自身にも衝動をコントロールする習慣が求められます。

 子ども相手にイライラしたり、怒鳴りつけたりしてはいけないのです。

 自身に衝動が起こったら、同じように深呼吸して、自分を落ち着かせ、衝動のままに動くと何が起きるか考えてから、子どもに対応することを習慣づけます。

 その際重要なことが、子どもを子ども扱いしないことです。

 子どもを一人の人格者として敬い、大人と接するように丁寧な態度で向かい合ってください。決して感情まかせにコントロールしようとしてはいけません。

 子どもに論理思考力がないかといえば、まったくそんなことはないのです。

 言葉で説明をして、「なぜか」を考えさせて(自分と向き合ってもらって)、納得してもらう。

 その繰り返しの中で子どもは衝動に駆られてもコントロールする術を学んでいきます。

 一方で、子どもを子ども扱いして、「なぜダメなのか理由を説明しない」「有無を言わせず強制する」といったことをしていると、子どもの自尊心、思考力、自分と向き合う時間、やる気を奪う原因となり、最悪の場合、親子関係が壊れてしまうことにつながります。

 子どもは自分のものではなく、あくまでも親と子という違う役割を持った対等な人間だと考えていかなければなりません。

 その態度が親に備わっていれば、子どもは親を人生のよき先輩として尊敬し、良好な親子関係を維持する中で自立し、自分の人生を歩んでいきます。

Points 衝動をコントロールする習慣は
・衝動の存在を気づかせ、コントロールする意味を説明し、コントロール方法を教える
・何よりも、親がイライラしてはいけない
・きちんと言葉で説明し、納得してもらうことが重要である

(本原稿はToru Funatsu著『すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。』から一部抜粋・編集したものです)