子どもたちが生きる数十年後は、いったいどんな未来になっているのでしょうか。それを予想するのは難しいですが「劇的な変化が次々と起きる社会」であることは間違いないでしょう。そんな未来を生き抜くには、どんな力が必要なのでしょうか? そこでお薦めなのが、『世界標準の子育て』です。本書は4000人を超えるグローバル人材を輩出してきた船津徹氏が、世界中の子育ての事例や理論をもとに「未来の子育てのスタンダード」を解説しています。本連載では、船津氏のこれまでの著書から抜粋して、これからの時代の子育てに必要な知識をお伝えしていきます。

世界標準の子育てPhoto: Adobe Stock

人間の成長課題を教えてくれる「ライフサイクル理論」

 アメリカの発達心理学者、エリク・エリクソンは「ライフサイクル理論」という理論を提唱しています。

 人間の成長には段階的なステージがあり、それぞれのステージにおいて乗り越えるべき課題を「どう克服したか」もしくは「克服できなかったか」が、その後の人間形成に影響を与えるというものです。

エリク・エリクソンのライフサイクル理論
1:乳児期(0歳~2歳/課題:基本的信頼感
2:幼児前期(2歳~4歳/課題:自律性
3:幼児後期(4歳~6歳/課題:自主性
4:児童期(6歳~12歳/課題:勤勉性
5:青年期(12歳~20歳/課題:アイデンティティ
6:成人期(就職~結婚/課題:親密性
7:壮年期(子育て時期/課題:世代性
8:老年期(リタイア期/課題:統合性

*年齢は目安。個々の成長スピードによって前後します

 まず、乳児期(0歳~2歳)の「基本的信頼感」とは、親からの愛情。特にスキンシップによるふれあいです。

「自分は親から愛されている」「親から受け入れられている」という信頼感はスキンシップによって育まれます。

 この時期は何よりも子どもとのスキンシップを密にして、子どもを無条件に可愛がってあげることが大切です。

 スキンシップが足りないと子どもは「愛されている実感」を得ることができず、その後のステージに向き合う姿勢が消極的になります。

 その後、幼児前期(2歳~4歳)の「自律性」とは、「自分でやってみたい」「自分で試してみたい」という自我の芽生えです。

 日本では「魔の2歳児・イヤイヤ期」などと呼ばれます。この時期に自分の主張が十分に受け入れられないと、子どもは「やる気」を失ったり、反抗的な態度を身につけてしまうことがあります。

 大切なのは子どもが自分の意思でやろうとしていることは最後までやらせてあげること。しつけや親の都合で子どもの行動を過剰に制限することは禁物です。

 自律性(自分でやってみたい気持ち)が満たされれば「イヤイヤ期」はあっという間に過ぎ去っていきます。

 自律性が満たされると、幼児後期(4歳~6歳)に「自主性」が生まれてきます。

「自分の好きなことをやりたい」「自分の楽しいことを追求したい」という自発的な意欲が生まれているこの時期に、スポーツや音楽など、挑戦する機会を与えると、子どもは自分の特性や人生の目標を見つけやすくなります。

 次の児童期(6歳~12歳)は「勤勉性」を身につけていく時期です。

 勤勉性とは自分の課題に挑戦しそれを成し遂げることで「喜びを見いだす経験」です。勉強、スポーツ、音楽、アート、ダンスなどを根気強く継続することで「勤勉性」は育ちます。

 これらステージごとの成長課題が克服できると、ティーンエイジャーになって「アイデンティティ」の確立がスムーズに実現できるようになるわけです。

 エリクソンの提唱する成長課題は、私が4000人以上の子どもを見てきた経験的な感覚とぴったり一致しています。

 こうした課題をライフステージごとで克服している子は、青年期(12歳~20歳)での伸びが違ってくるのです。

 たっぷり愛され、チャレンジ精神にあふれた子どもは自身の「強み」を見つけていき、青年期にさらに活動の場を広げていきます。そして、失敗や成功を重ねながら確固たるアイデンティティを獲得していくのです。

 アイデンティティが確立すれば、たとえどんな進路を選ぼうと、子どもは自分の進むべき道を(自分で)見つけ、自分の目標を実現するためのスキルを身につけていきます。こうなれば、教育は大成功と言ってよいでしょう。

 どんな学校に入るかというのは、たしかに無視できない要素ではあるのですが、あくまでも通過点であり、自分の望む人生を手に入れるための手段に過ぎません。

 ところがそのことを見失ってしまうと、教育は思わぬ方向に向かってしまうのです。

 教育は長期的視野で行うことが大切です。今の子どもが思い通りの姿でなくても慌ててはいけません。

 親は右往左往せずどっしりと構え、今やるべきこと、今克服すべき課題に集中すれば、必ず子どもはたくましく成長していきます。

受験や就職を目的にすると、なぜいけないのか

 これまで、「有名学校への受験」や「有名企業への就職」をゴールに育てられてきた子どもたちを多く見てきました。

 子どもが自分の意思で学校や就職先を選択するなら何の問題もありませんが、親の希望やプレッシャーで、あるいはクラスのみんなが受験するから、と選択を他人にゆだねてしまった場合は、その後に大きなトラブルが起きることが多々あります。

 たとえば、いざ合格した途端に燃え尽き症候群になってやる気がなくなってしまったり、進学後に激化する競争についていけず心が折れる。また、大学を卒業して大手企業に就職するも、キャリアの早い段階で挫折し、立ち直れなくなってしまった、などが典型的な事例です。

 受験勉強一筋で生きてきた子は、勉強以外の道を学ぶ機会が少なくなります。すると、困難に出合った時のふんばりや、人間としての幅、あるいは強みが育ちづらいのです。

 さらに、多様な経験と、その経験からくる自信の不足などによって「自分が何者であるか」ということへ真剣に向き合うことができません。

「言われたことはできるが、自分の意思で選択することができない」、社会に出ても「自分が何をしたいのかわからない」といったことが起きてしまうのです。

 そのような事態を回避するためには、子どもが自分の強みを見つけるように親が環境を整え、「子どもが自分で選んでいる」と思える仕組みを作り、上手に導く必要があります。

 どのような態度を親が見せ、どんな環境を用意し、何を投げかけ、どう考えさせるか。そのような親の習慣が、子どものアイデンティティを作るきっかけになります。

(本原稿はToru Funatsu著『すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。』から一部抜粋・編集したものです)