ビジネスの現場で「斬新なアイデア」を発想するには、天才でもないかぎり、過去のデータ分析や他社事例の深掘りからスタートするのが鉄則だ。そうすると、これまでの成功例の「意外な共通点」に気づき、それを応用して自分の施策に取り入れることが可能になる。うまくいけば、1つのデータポイントから高い付加価値を引き出すことができる
そこで今回は、「読むと人生が変わる」「『金持ち父さん貧乏父さん』以来の衝撃の書!」と絶賛されている、全米ベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』より一部を抜粋・編集して、徹底したデータ分析でその名を馳せたある競馬予想家の「サクセスストーリー」をご紹介する(構成/根本隼)。

【職場ですぐバレる】「深い思考ができる人」「すぐ思考停止する人」の決定的な差Photo:Adobe Stock

「思考停止」しないためにはデータ分析が欠かせない

 社会課題の解決や、ビジネスチャンスの開拓に行きづまったとき、その突破口になるのが「斬新なアイデア」だ。

 アイデアは降って湧いたように思いつくこともゼロではないが、多くの場合は入念なデータ分析から論理的に導き出される

 例えば、アメリカの映画『マネーボール』では、2000年代初頭のMLBで最弱だったオークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーン氏が、データ収集とその解析を通じて、チームをリーグ屈指の強豪へと変貌させていった実話が描かれている。

 ビーン氏は、緻密なデータ解析から、それまで誰も着目していなかった「出塁率」こそが、試合の勝敗に与える影響が大きいと考えた。そこで、出塁率の高い選手を中心にしたチーム編成を行なったところ、なんと当時のメジャー新記録である20連勝を達成したのだ。

ソ連の崩壊も、データ分析から予測できた

 また、フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は、乳児死亡率の増加と男性の平均寿命低下という2つのデータから、著書『最後の転落』(1976年刊、邦訳は2013年刊)でソ連の崩壊を予言した。その後の史実は、今さら語るまでもない。

 世の中に流通している膨大な情報の中から、自分に関心のある問題において有意で、なおかつそれまで注目されていなかったデータを抽出することができれば、とてつもなく大きな価値や意義を生み出すことができるのである。
 
 本稿では、お金を貯め、富を築くための「証明済の方法」を指南する『JUST KEEP BUYING』より一部を抜粋・編集して、綿密なデータ分析から「強い馬の条件」を見抜いて成功した、ある競馬予想家の成功秘話をご紹介する。

「馬の血統」は関係ない!?

 競走馬のアメリカンファラオは、2015年に3冠を達成するまで誰からも期待されていなかった。だが、ジェフ・セーダーは違った。セーダーは他の競馬研究家とは違い、馬のブリーダーがなにより大切にしている“あるもの”を気にしていなかった。それは、馬の血統だ。

 競馬界では、馬の母、父、血統全般が競走馬の成否を左右すると考えられている。だが、膨大なデータを分析したセーダーは、この考え方は正しくないと気づいた

 セーダーはもっと別の要因があるはずだと考え、さらなるデータを求めた。データを大量に集め、何年もかけ、競走馬をあらゆる角度から分析した。鼻孔のサイズ、排泄物の重さ、速筋繊維の割合――。

 だが、何も発見できなかった。

 その後、ポータブル超音波を使って馬の内臓の大きさを測定するアイデアを思いついた。これが的中した。金脈を掘り当てたも同然だった。
(P.250)

「心臓の大きさ」がすべてだった

 データサイエンティストのセス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツは、著書『誰もが噓をついている――ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』(酒井泰介訳、光文社)の中で、セーダーの発見についてこう書いている。

「彼は、心臓の大きさ、特に左心室の大きさが、競走馬の成功の大きな予測因子であり、最も重要な変数であると気づいたのだ」

 
「心臓の大きさ」がすべて、それだけだ。セーダーの分析によれば、心臓の大きさこそが、競走馬の成功要因としてなにより重要だったのだ。

 セーダーはだからこそ、オークションに出品されていた他の馬には目もくれず、買い主を説得してアメリカンファラオを購入させたのだ。

 その後何が起きたかは、誰もが知るとおりである。セーダーのエピソードは、たった一つの有用なデータポイントから、いかに大きな価値を引き出せるかを物語っている。
(P.251)

(本稿は、『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』の一部を抜粋・編集して構成したものです)