ヘッジファンド「ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)」の崩壊は、シリコンバレー銀行(SVB)の破綻や、サブプライム住宅ローン問題をきっかけとしたリーマン・ブラザーズ破綻のショックより前に起き、その後のあらゆる経済危機での救済を方向付けることになった。
LTCMはノーベル経済学賞受賞者をはじめとする金融界の実力者を集めた「ドリームチーム」を擁し、ほとんどリスクなしに大金を儲ける方法を編み出したと考えた。LTCMに数百億ドルの資金を提供した多数の銀行もそれを信じた。1998年に同ヘッジファンドの戦略が破綻すると、米連邦準備制度理事会(FRB)は前例のない救済策を用意し、株式市場の下落を抑えようと金利を引き下げた。25年後の今もその影響は残っている。「(FRB当局者の発言や政策が株価下落を抑える)FRBプット」という言葉が生まれたのは、このLTCM危機のさなかだった。
FRBプットの基本的な考え方は、株式相場の下落に対応してFRBが金利を下げることで、実質的にプットオプション(売る権利)と同様のものを投資家に提供することだった。プットオプションは損失に対する保険としてトレーダーが利用する取引である。さらに、株価が急上昇してもFRBが利上げに転じるのは遅れるため、プットオプションの価格が高く値付けされ続けるのと同様で、投資家はそれが存在しなければ取れないようなリスクを取るようになる。