市場が早期の利上げ停止、年明けからの利下げを織り込む中、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げ停止後も金利水準を維持する見込みだ。また、パウエルFRB議長は景気後退なきインフレ退治に自信を見せる。景気後退を回避し、また再燃させることなくインフレを抑制できるのか。特集『中央銀行vsインフレ “新常態”時代の闘い』(全7回)の#6では、5人の米国経済の専門家へのアンケートを通して読み解いてゆく。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
急激な利上げにもかかわらず
底堅い景気
「基本的な考え方は、深刻な景気後退なくしてもインフレ率は目標まで下げられるというもの」
「スタッフは誰も景気後退を予測していない」
パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見でこう語り、景気後退なきインフレ退治への自信を見せた。
米国の7月のCPI(消費者物価指数)上昇率は前年同月比3.2%となり、前月を0.2%上回った。ただ、2022年6月の同9.1%をピークに上昇率が鈍化していることは間違いない。
上図に見るように、21年春からインフレ率は上向き始めた。新型コロナウイルスの感染拡大によるサプライチェーンの混乱で生じた供給制約、巣ごもり需要によってモノへの需要が集中、コロナ禍対策としての財政出動による多額の給付金に伴う需要増加が重なって上昇しだした。
当初、パウエル議長は、供給制約要因はいずれ解消するとみて「インフレは一時的」と判断し、金融緩和を継続した。だが、21年11月になって「一時的」との判断を翻し、金融引き締めに向けて動き始めた。
実際に、政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標を0~0.25%から0.25~0.5%に引き上げ、利上げに転じたのは22年3月。その時点で発表されていた2月のCPI上昇率は7.9%だった。
ロシアのウクライナ侵攻でそれまでも上昇していたエネルギー、穀物価格が急騰したことも加わり、ピークである22年6月の9.1%までインフレは加速していった。
高インフレを抑制するために、FRBは利上げ幅を22年5月に通常の2倍である0.5%、22年7月から11月まで4回連続で3倍である0.75%と加速させ、11月時点では、FF金利を3.75~4%にまで引き上げた。
22年12月以降は利上げ幅を縮小させ、23年6月の会合でいったん休止、7月に0.25%の利上げに踏み切り、現在のFF金利は5.25~5.5%である。1年4カ月でなんと5.25%も引き上げた。
この急速かつ大幅な利上げでインフレ率は低下した。一方、急激な政策金利引き上げにもかかわらず景気は底堅い。
23年4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は、前期比年率換算で2.1%となり、4四半期連続でプラス成長となった。
雇用も堅調だ。23年7月の失業率は3.4%と18カ月連続3%台で推移している。これはコロナ禍前と変わらない水準である。
FRBは物価が上昇し始めた初期、インフレは一時的と判断したことで引き締めが遅れ、インフレ率の高騰を招き、大幅な利上げを余儀なくされたことは否めない。
しかし、出遅れはしたがここまでは景気を後退させることなくインフレ率の低下に成功していることも事実である。
今後も景気を後退させることなく物価上昇率を目標である2%に収束させ、インフレ退治をすることができるのか。米国経済を分析するエコノミスト5人へのアンケートに基づいて、次ページ以降検証していく。