私たちは様々なシーンで意思決定を求められる。仕事では合理的な判断が大切だ。だが、自分の人生に関わる判断において、必ずしも合理的に考えることが正しいわけではない。後悔しない判断のために、自分に問いかける7つの質問を紹介する。
習慣化のプロとしてこれまで5万人を指導し、1000人以上をコーチングしてきた古川武士氏が、心を整える「書くメソッド」を体系化した書籍『書く瞑想』から、一部を抜粋して特別公開する。(初出:2022年1月29日)
迷ったら、どう判断すべきか?
自分の「感情基準」を大切にする
思想家のケン・ウィルバーがビッグスリーと述べる「真・善・美」という判断基準があります。
「真」とは、真実や真理を指し、合理的な判断基準を意味します。「善」は、「私たちが何を大切にしているか?」による集団の判断基準です。「美」は、「私は何が良いか?」という個人の判断基準です。
もちろん、判断基準を幅広く見れば「真」も「善」も大切です。しかし、そればかり偏重して「美」による判断をスルーしていると、「私は何がしたいのか?」「私の豊かさ・幸せは何だろうか?」がわからなくなっていきます。
心で感じて決めるべきことを、「真」でねじ伏せようとすると混迷は深まるばかりです。
自分の人生において、もっと「美」という自分の感情規準で選んでいいことはたくさんあります。
自分の「感情基準」を明確にするためには、自分への質問が有効です。
まずはシンプルに「それは、放電(気分を下げること)か? 充電(気分を上げること)か?」と自分に問いかけ、どういう感情が湧き起こるかを感じ分けてみてください。
それをさらに深めていく質問を、次項で7つ紹介しましょう。
感情基準で決められる「7つの質問」
「放電」「充電」は、感情基準で心との対話ができる重要な質問キーワードです。
ただ、より細かい7つの質問を用意して心の感情(気分、欲求、願望)を内側で味わうようにしたいと思います。
これらは私がコーチングをする際、感情基準を明確にするために投げかける質問です。
似たような質問が並んでいますが、微妙なアングルの違いがあります。あなたに合った質問で問いかけ、感情の変化を感じ取ってみてください。
質問1:「好きか、嫌いか?」
単純な質問ですが、私たちは大人になり、真・善を追求するあまり、シンプルに「好きか、嫌いか?」という単純な感じ分けができなくなっています。
嫌いなことを生活にたくさん抱えて手放せていない人は、まずどれくらい嫌いなことをやっているかを書き出してみるといいでしょう。
もちろん、嫌いだからやらなくていい、付き合わなくていいとはならないにしても、心への負担が自覚できます。自覚できたものは変えていけます。
質問2:「やりたいことか、すべきことか?」
考えすぎると、やりたいことか、やるべきことかの区別がつかなくなっていることがあります。目標を据えたとしても、手段が目標化してきたりして、行為と目標の関係が形骸化してやる気が落ちることがあります。
英語の勉強は好きでやっているのか、それとも将来必要だから義務としてすべきだと思ってやっているのか、わからなくなるようなものです。実はやりたいことで始めたのに、義務になってしんどくなっているケースがあります。
この違いを区別できると、「英語はやりたいことだけど、TOEICの点数アップを目指すとあまりやる気が湧かないのかもしれない。別の手段を考えてみよう!」と自己対話は次の気づきの段階に向かいます。
質問3:「乗るか、乗らないか?」
気持ちが乗ることは、行動できますし、継続しやすいものです。逆に気持ちが乗らないことを自分に鞭打つように意欲だけを高めさせようとすると、どんどんしんどくなっていきます。
私は仕事の依頼を受けるとき、この依頼は「自分は乗るか、乗らないか?」と内側に聞きます。特に大きなプロジェクトを始めるときは簡単にやめられない分だけ、内側のやる気に強い源があるかどうかを確認するようにしています。
「好きか嫌いか」と似ていますが、自分に投げかけてみるとそのテイストが違うことがわかります。頭で判断することではなく、心でその動機や欲求を感じることが目的です。
習慣化の方法でも、そのやり方だと「気持ちは乗りますか?」と聞くとモチベーションに気づくことができます。
質問4:「楽しいか、つらいか?」
身も蓋もないように聞こえるかもしれませんが、「楽しいことは続く、つらいことは続かない」。習慣化のコツは感情面がすごく大きいのです。
ただし、この楽しさというのは気分や気持ちという表層的なものなので、海の水面のように波立ち刻々と変化します。今楽しくても、3ヵ月後も楽しいとは限りません。
だからこそ、常に問いかけ、楽しいという感覚をどうすれば自分で保ち続けられるか工夫することが大切です。
質問5:「ワクワクするか、しないか?」
「ワクワクするか?」というと小学生の子どもに問いかけるような稚拙な質問に聞こえるかもしれませんが、私たちの情熱や欲求、好きの源泉となるものを問う質問としてはこれ以上の言葉はないと私は思っています。
「好きか、やりたいか、乗るか、楽しいか」とも、またニュアンスが違って、より深い願望や欲求と現実がつながっているかを確認するのに良い質問です。
弊社のチームは、好きを仕事にする方針(ワクワク基準)でやっているので、常にメンバーには「今の仕事、ワクワクしていますか?」と問います。
これは、一時的な気分や気持ち、つまり、短期的につらいとか、疲れているとかを確かめるというより、本質的な情熱や価値観に触れているかどうかを確認するために常に投げかけています。
ワクワクしないとすれば、何が変わったのか、どんな価値観に触れなくなったのかを確認して、やり方を軌道修正したり、役割変更を行ったりします。ワクワクベースからズレたやる気で仕事をすることを互いにやめようと言っています。それはもちろん私自らにも常に問いかけています。
質問6:「自分に合っているか、合っていないか?」
「性に合う、合わない」という言葉がありますが、本来自らが持っている興味や強みに合っているものは継続でき、かつ成果にもつながります。
たとえば、私は本を書くことは性に合っています。人と話さず1人で対話をしているのは私にとって「性に合う」という感覚です。
昔からパズルやプラモデルなどを黙々と作るのが大好きでした。逆に、パーティーなど広く交流する場は、「性に合わない」のです。
若いうちは、苦手なことをして幅が広がることもありますが、長い人生において自分の本分を見つけ、潜在的な可能性を広げていくには「自分の性」に合ったことをやるのが重要ではないでしょうか。何かを始めたとき、自分に合っているかと問えば、性との相性を腹で感じることができます。
そして合わないと感情基準が反応したら、それに執着せず別の選択肢を探ってみましょう。いずれ性に合うものが見つかるはずです。
質問7:「心の底から深く求めていることか?」
最後は、より深い心の底から湧き上がる感情を感じる質問を投げかけてみましょう。
「それは、心の底から深く求めていることですか?」
このレベルの質問は、コーチングをする際には、人生における重大な決断をするときに(結婚、転職、起業など)私は投げかけます。
好きとか、楽しいという気持ちのレベルではなく、深層レベルにある価値観、使命感、それらを含めた内なる源がそれを望んでいるのか。深い部分で揺るぎないものを感じるためには、この質問が有効です。
これらは頭との対話ではなく、心、腹と対話するための質問です。ここに「放電か? 充電か?」という問いかけを含めると、ずいぶんと多様な心との対話の質問ができるようになります。
(本原稿は『書く瞑想──1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』からの抜粋です)