書くと不安がなくなる。自分自身が整理される。そう経験的に感じている人も多いだろう。だが、それはなぜか、どういう書き方が効果的なのかを知っている人は少ない。不安な時代こそ、知識やスキルを焦って付け足すのではなく、自分を深く知ることが大切だ。答えを自分の外にではなく、内に見出すこと。そのために有効なのが「書く」ことだ。
習慣化のプロとしてこれまで5万人を指導し、1000人以上をコーチングしてきた古川武士氏が、行き着いた最も効果的な習慣は「書く」ことだった。必要なのはノートとペンのみ。自分と向き合い、本当に大切なことに気づけば、生き方は今よりずっとシンプルになる。自分を整理するための「書くメソッド」を体系化した書籍『書く瞑想』から、一部を抜粋して特別公開する。
「書く瞑想」5つの効果
「書く」ことには様々な効果があることが学術的な研究からもわかっています。
不安やストレスを抑制したり、自分の感情を可視化することで客観的に自己認識したりすることができます。
意識的な思考ではなく、自分でも気づかない「感情」をすくい上げることで、自分への理解も進みます。
ただ紙に書き出すというシンプルな行為によって、頭の中でこんがらがっていたことの解決の糸口が見えてきたり、自分が何者で、何を望んでいるかを改めて知ったりすることができます。
ポイントは、ログ(箇条書き)とセルフトーク(独り言)という2つの方法で、放電(気分を下げたこと)と充電(気分を上げたこと)を書き出していくことです。
では、「書く瞑想」を行うと、どんな効果があるのでしょうか。
効果1:自覚できると、コントロールできる
まず、心が何によって乱され、動かされているかを自覚することはコントロールへの第一歩となります。
当然ですが、無自覚なことは変えることができません。まずは、どんな要因が自分の心を乱し、または高揚させているのかを自覚することができれば、次にそれを減らしたり、増やしたりできるわけです。
書く瞑想は、放電、充電という2つの切り口で、マイナスとプラスの感情を探ります。
またログでは広く網羅的に感情に影響する複雑な日常の出来事を書き出しました。
このログがあれば、放電を減らし、充電を増やす具体的な行動の切り口が見えてきます。
大切なことは、まず言語化して、自覚することです。
すぐに変えずに自覚するだけで、改善へのステップアップを始めていくのです。
効果2:客観視できると、出口が見える
1つのたとえ話を見てみましょう。「破れ寺に迷い込んだアブと住職」の話です。
私たちが日常でぶつかる課題、それによる感情は滑稽なぐらい同じことの繰り返しです。
まさに次の話のアブと同じで、目の前の壁にぶつかっては方向転換を繰り返すパターンから抜け出すことができません。
江戸時代のこと、風外本高様は愛知県の香積寺の住職でしたが、大阪の破れ寺に住んでいたころ川勝太兵衛というお金持ちが人生相談にやってきました。
夏だったのでしょう、どこからか虻が一匹飛び込んできた。
風外さまは太兵衛の話を聞いているのかいないのか、虻ばかり見ておられる。
太兵衛は思わず「風外様はよほど虻がお好きですな」と。
すると風外様は「この寺は破れ寺、どこからでも出ていけるのに、ここからしか出られないと思って同じ所にぶつかっては落ちる。こんなことをしていては死んでしまうな。しかし人間もよう似たことをしておりますなあ」と言われた。
太兵衛は、ハッとして虻にことよせてお示しくださったと気付き、以後熱心な参禅者になった。
──青山俊董『十牛図 ほんとうの幸せの旅』
外から俯瞰して客観視していると、抜け出す出口があることに気づけるのです。
ログを1ヵ月も集約すると、自分がぶつかる壁とパターンを客観視でき、何をすれば良くなるのか出口が見えます。
これが書く瞑想によってログとセルフトークを言語化することで得られる効果です。
効果3:雑念を払い、脳を創造的に使える
頭の中では、整理されていない思考や感情があると、脳はそれにとらわれてエネルギーを消耗してしまいます。
余計なソフトを複数開いているとパソコンに負荷がかかり動きが遅くなるように、多忙な日常、複数の役割、大量のタスク、複雑な感情を抱えているときであれば、今日をやり過ごすだけで精一杯の状態になり、他のことを考える余裕はありません。
書く瞑想のログでごちゃごちゃした現状を網羅的に書き出すと、脳をより大切なことに使えます。
日常の雑念、感情を書き出すことで、自己感受に向けて脳を創造的に使えるわけです。
効果4:表面ではなく、深層を洞察できる
書く瞑想のセルフトークでは、感情を深掘りしてきました。瞑想的に書くことで深い感情に気づけます。
その深い感情は気づかれさえすれば、解決可能なことがあります。
むしろ、一番難しいのは深い部分で感じている感情の正体がうまく言い当てられず、別の箇所を扱っているときに感じる空振り感です。
もちろん、一足飛びに自分の感情のこじれの根本・最奥に気づけるのであればいいですが、セルフトークを習慣にすることで、どんどん上手に感情を汲み取り、より深いところにあるマイナス・プラス感情に気づくことができます。
効果5:日々書き出すことでセルフモニタリングができる
放電を減らし、充電を増やす解決策は何かといえば、ほとんどが「習慣」になります。
たとえば、暴飲暴食、ネットサーフィンをやめる、早寝、早起き、運動を定着させる、などは習慣です。
書く瞑想は、単純に心をリセットするだけの目的ではなく、放電を減らすための生活習慣の改善、自己管理も視野に入れています。
習慣化を続けるためにどうすればいいかというと、効果が大きいのは「記録」することです。
日々記録することで、行動とその後に味わった感情をモニタリングできます。
日々の書く瞑想のログでモニタリングすることで、継続できるようになります。習慣化行動にも有効なのです。
(本原稿は、『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』からの抜粋です)