ステージ0の膵臓がんは別として、ステージ1以上であれば、「手術可能な膵臓がん」であっても、その多くが手術だけでは治らないのです。焦って手術をするとむしろ抗がん剤治療が十分にできないために、本来根治できるはずだったものさえ根治できなかったり、根治できない場合でも、抗がん剤の効果で長く元気でいられたはずの時間が短くなったりします。
膵臓がんの治療は決して手術ありきではないことを強調しておきたいと思います。
もっとも、みなさんの中には納得できずに妙な顔をされている方もいらっしゃるかもしれませんね。無理もありません。一般の方からすれば、「がんがあるんだから、早く取らなきゃ」と考えるのが普通でしょうし、「手術を先延ばしにしているうちに、がんがどんどん大きくなってしまったらどうするんだ」と不安になるのも当然でしょう。
われわれ外科医は、外科医である前に医師であり、医師である前に人である以上、それぞれの患者さんにベストの治療を提示して提供するのが人の道、「大義」です。しかし外科医に限らずいえることですが、世の中に常に大義を通して生きている人はどれほどいるでしょうか。外科医も人間ですから、腕を振るいたいという下心から、どうしても手術を優先して提示することがあるのも事実です。だからトリックを使っているのだとは言いませんが、外科医自身も自分のやっているトリックに気づきにくいのだと、私は思います。
繰り返しになりますが、ステージ1以上の膵臓がんは早く取ればよいというものではありません。他の治療法を組み合わせながら、じっくり時間をかけて、そして相手がどういう態度を示すのか見極めながら治していくことで、根治できる可能性、長く元気でいられる可能性を上げるのが賢明なのです。
遠隔転移がある場合は「手術」よりも
「抗がん剤治療」のほうが優先される
では、いったい手術以外にどんな方法を組み合わせていくのか。
それは、「抗がん剤を用いた化学療法」や「放射線療法」です。とくに抗がん剤を用いた化学療法は、ステージ1でも遠隔転移が潜んでいることの多い膵臓がんにおいては絶対に欠かせません。
手術や放射線治療は膵臓がんの本体とその周辺(局所)のみに限定して手を下す治療法であるため、「局所治療」に分類されます。放射線治療も、体全体に放射線をあてるわけではなく、患部とその周辺の一部を含む程度の限定した範囲にあてるのが基本ですので局所治療です。