すい臓がん「手術だけが根治の道」はミスリード、専門医が指摘する“言葉のトリック”とは?写真はイメージです Photo:PIXTA

5年生存率が8.5%と低く、他のがんと比べても特にタチが悪いと知られる膵臓がん。よく見かける「膵臓がんは手術療法だけが根治のための唯一の道」という言葉を鵜呑みにしてはいけない理由を、膵臓がんのエキスパートがわかりやすく解説する。本稿は、本田五郎『膵臓がんの何が怖いのか』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。

「膵臓がんは手術だけが唯一の根治的治療」
を鵜呑みにしてはいけない

 よく膵臓がんの専門医療機関のホームページを開くと「膵臓がんは手術療法だけが根治のための唯一の道です」といった案内が書いてあります。膵臓がんに関する一般向けの本やサイトにも、しばしば同じようなことが書いてあります。外科医である私が言うと少々違和感があるかもしれませんが、このフレーズを鵜呑みにしてはいけません。巧妙に言葉のトリックが仕組まれています。

「膵臓がんを根治するために、何とかして手術ができる状況にこぎつけて、とにかく手術をしましょう。そうすれば助かります」という意味に解釈する人も結構いるのではないでしょうか。

 2012年に集計された日本膵臓学会の過去27年間の全国調査データでは、ステージ1の5年生存率がだいたい60~70%、そして、ステージ2だと15~30%くらいに一気に下がります。この全国調査データに登録されたステージ1や2の患者さんのほとんどが手術を受けていますので、これは手術でどのくらい治ったのかを示したデータと理解してよいと思います。

 このデータをもう一度よく見てみましょう。裏を返すと手術で膵臓がんを切除できてもステージ1では30~40%、ステージ2では70~85%の患者さんが根治できていない、つまり手術後に膵臓がんが「再発」して、膵臓がんが原因で亡くなっていることになります。

 最近は膵臓がんに有効な抗がん剤が複数使えるようになり、膵臓がんの5年生存率はもう少しよくなっていると思います。しかし、抗がん剤だけで膵臓がんを根治するところまで行けることは、いまでもほとんどありません。放射線治療と抗がん剤を合わせた治療も有効ではありますが、やはり根治するところまで行けることはめったにありません。

 たしかに「膵臓がんは手術療法だけが根治のための唯一の道です」というのは間違いではありません。しかし、これは決して「手術さえすれば膵臓がんは根治できる」という意味ではなく、「手術ができた人の中にだけ根治できる人がいる」というのが正しい意味なのです。どうでしょう、言葉の「トリック」に気づかれたでしょうか。

 手術をして根治できる膵臓がんと手術をしても根治できない膵臓がんがあって、しかも現時点では後者のほうがかなり多いのですが、「膵臓がんは手術療法だけが根治のための唯一の道です」という言葉で魔法をかけられた患者さんは、とにかく手術を受けて、膵臓がんを克服することを願ってしまう。時には、神の手と呼ばれる外科医のもとに出向いて、無理やりにでも取ってもらおうとします。