白い服を着た美女の写真 Photo:PIXTA写真はイメージです Photo:PIXTA

中国の“フツーの人たち”が引き起こす、荒唐無稽な事件を、芥川賞作家・楊逸が厳選して紹介していきます。これは、美人が多いことで知られる四川省で実際に起きた事件。女子大生の肖雲彩(ショウウンサイ)は、就職先が決まらず焦っていました。ある日、求人広告の「愛人募集」に目が留まり……。

※本稿は、楊 逸『中国仰天事件簿―欲望止まず やがて哀しき中国人』(ワック出版)の一部を抜粋・編集したものです。他の事件にも興味のある方は是非、単行本をお読み下さい。

もうすぐ卒業なのに、就職先が決まらない女子大生

 肖雲彩、四川省のとある農村の出身で、2014年重慶の大学に進学したため、親元を離れ寮に移り住むようになった。

 2018年4月、22歳になった彼女は長い就職活動をしてもなかなか結果が出ない中、仲良しのルームメイト鄭某(チュンなにがし)に誘われるようにして、重慶市にある中堅の民営企業にインターンシップで入った。

 しかし正社員の定員は1人。3カ月間働いたのち、鄭が採用されたため、肖は落ちて、職探しを続けるしかなかった。

 同級生が次々と職を決めて、学生寮の中でも就活の話題はいつの間にか、「寮から出て行く」とか「アパートは会社の近くで借りたい」とかに変わり、彼女は焦った。それもそのはず、中国の大学は日本と違って秋入学である。6月は卒業シーズンなので、そろそろ寮から出なければならない時期だったのだ。

 むろん仲良しの鄭は就職が決まってすぐアパート探しに奔走し始めた。会社に近いエリアを狙っているようだが、何せビジネスと商業が集中している土地柄もあって、その辺は家賃が高いらしい。

「あたしとルームシェアするのってどう?」

 ある日、肖がベッドの中で求人広告をめくっているところに、寮に帰ってきた鄭が訊いてきた。

「いや、仕事がまだ決まっていないのに、アパートどころじゃないんだよね」
「そんなこと言って、ここから追い出されたらどこに住むの? 住むところがなければ職探しもうまく行かないでしょ?」

 その通りである。職探しとアパート探しを同時進行でやらなければならないのだけれど、しかし……。肖は一段と落ち込んでしまう。

 数日後、外出中の肖に鄭から電話がかかってきた。――狙うエリアで良い物件を見つけた、一緒に見てほしい、と。

 WeChatに届いた住所にすぐ駆け付けた。環境も広さも間取りも女子が二人住むのに適した部屋ではあった。ただ家賃は月1800元(約3万6000円、1元=20円で換算)。入居時に半年分一括先払いするのが契約条件だ。

 職がまだ決まっていないのに……。傍で躊躇(ためら)う肖を見て、鄭はすかさず「最初の半年分は私が立て替えておくから、仕事が決まって給料が入ったら返してくれれば良いよ」と言ってくれたので、頷いて契約書を交わした。