日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した、中国人の楊逸(ヤンイー)さん。中国の“フツーの人たち”が引き起こす、日本人には想像もつかないような荒唐無稽な事件を厳選して紹介します。求人広告の「愛人」に応募した女子大生の肖雲彩(ショウウンサイ)。審査が進み、男からの要求も次第にエスカレートしていきます。ある日「裸の写真を送って」と言われ……。
「君のヌード写真を送って」と言われて肖は……
携帯通話ができるお陰でやがて二人は頻繁に連絡するようになった。出張していても昼間は会議しながら張社長は、携帯メッセージでチャットし、夜はホテルからネットの「qq」でトークし続ける。
「きみの洞察力はすごいね」だの「なんと聡明な人なんだ」だの「私が欲している愛人はまさにきみのような人なんだよ」だのと褒められて、肖はふわふわして夢心地になっていく。
仕事や夢についての話題はそのうち身の上話になり、やがて彼女のプライベートあるいは男女関係にも移っていった。
気付けば5月も終わりに近づいた。張社長は「もうこれ以上ほかの候補者と話すのは無駄だから、愛人をきみに決めようと思うんだ。ただ関係を確立させる前に、俺のちょっとした個人的な嗜好を満足してくれるかな?」と訊ねた。
「もちろんです。どんな嗜好ですか?」
「ちょっと言いにくい俺の癖なんだよね。もしいやだったら断っても良いぞ」
「何でも言ってください」
「実は、俺は女性のボディサイズをすごく気にする方でね」
「はい、どうやって見せればいいんですか?」
肖は一瞬ためらった。だがすぐに「今引き下がったらここまでの努力が水の泡になってしまう」と思いなおした。
「写真に撮って送ってくれるか」
仕方なく肝心の部分を隠したうえ、バスト、ウェスト、ヒップを別々に撮った写真を送ることに。自分の顔が映っていない分、万が一写真が流出しても大して問題にはならないだろうと、一応気をつけてはいた。
「俺が想像したのとほぼ合っている。これで宜しい」という張社長の返信が届いて、肖は安心した。
だが翌晩になって、張社長はまたメッセージを送ってきた。
「あのさ、夕べきみの写真を見てからずっともやもやしてるんだ。写真に映ったボディがほんとにきみかどうか? ネットからダウンロードしたものじゃないとも限らないだろう? どれも部分しか映っていないから、きみだと証明してもらわなきゃね」