西成あいりん地区「中国系ガールズバーが占拠で無法地帯化」報道の意外なその後貼られたレッテルは“危ない商店街”。だが水面下では「西成×中国資本」が意外な変化を起こしていた 著者撮影

衰退する日本の商店街の生き残りは全国的な課題となっている。他方、商店街の中には中国資本の参入でにぎわいを取り戻すところが出てきた。大阪市西成区にある商店街もその一つだ。日雇い労働者の街「あいりん地域」に接する商店街に「中国系ガールズバー」が出現して約10年。“危ない商店街”のレッテルをよそに、「西成×中国資本」は意外な変化を起こしていた。(ジャーナリスト 姫田小夏)

中国人の不動産投資が変化の始まり

 大阪市西成区といえば「あいりん地域」で知られる日雇い労働者の街だ。御堂筋線「動物園前駅」を降りると視界に飛び込んでくるのは、住所を持たない人々が生活する安宿、いわゆる簡易宿泊所が集まっている地区である。「動物園前一番街」「動物園前二番街」はそんな人々の生活圏に延びる商店街だ。

 日が暮れて理髪店や漬物店などの昼の店がシャッターを下ろすと、街のたたずまいはガラリと変わる。薄暗いアーケードにズラリと並ぶけばけばしい色の電飾看板は、この街独特の新業態「カラオケ居酒屋」だ。別名「安価な中国系ガールズバー」とも呼ばれている。

 これらは、2015年を前後して「中国人経営のぼったくりバー」という報道が繰り返され、一帯が一躍“悪名高いエリア”となった。ただでさえ「危ない」といわれる西成に、「中国人」「中国系」というキーワードが加わって、余計に近寄りがたい場所になった。

「動物園前二番街」の中国系カラオケ居酒屋で、筆者は大阪市内で会社を経営する吉川葉一さん(68歳)と待ち合わせた。この商店街の変遷を知る人物でもあり、カラオケ居酒屋(中国系ガールズバー)という新業態を“趣味と実益”を兼ねて緻密に調査する一人だ。

 この商店街に中国資本が参入し始めたのは2010年前後からだという。「もともとこのエリアで下働きをしていた中国人が不動産事業に乗り出し、商店街の空き店舗を買い上げたことから始まったんです」と吉川さんは振り返る。

 現金で店舗を買い上げるその中国人の資金力はすさまじく、複数店舗を買い上げて「店舗経営者募集」の広告を中国語のフリーペーパーに打ちまくった。「店舗経営」は、大陸から来た中国人が手っ取り早くできる商売の一つだったこともあり、オーナー希望者が殺到し、街並みは瞬く間に“カラオケが歌えて女性もいる居酒屋街”に一変したという。

 その後、「ここを中華街にする」といった大胆な構想が浮上した。「2025年に224億円の店舗売り上げを目指す」などといった具体的な数字までもが飛び出したが、住民の拒絶反応とともに頓挫した。