突如として訪れた「値上げが当たり前」の時代。しかし、それにあらがい、「逆張り戦略」を採っているのがサイゼリヤだ。300円の「ミラノ風ドリア」に代表される、安くておいしいメニューをそろえ、ごく一部を除いて値上げせずに踏ん張っている。そんなサイゼリヤのミラノ風ドリアは、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏の経営哲学そのものといっても過言ではない。(イトモス研究所所長 小倉健一)
「値上げしないサイゼリヤ」が
国内事業で苦戦中だが…
サイゼリヤが苦境に立たされているのだという。
7月には無料で提供していた粉チーズを小皿100円(税込み、以下同)へと値上げをしたものの、メニュー全体の値上げは見送ったサイゼリヤ。円安による輸入コストの上昇に加えて、燃料費に人件費、水光熱費、輸送費の高騰なども重なっている今、商品価格の値上げ圧力がこれほどまでに高まった時代もかつてなかっただろう。それでも「値上げをせずに客数を増やす」ことを念頭に、値上げを見送ったのだ。
サイゼリヤ1店舗当たりの来店客数(国内)は1日約400人で、コロナ禍前の水準であった450~500人まであと少しだ。人手不足の影響もあって、閉店時間をコロナ禍の中で短縮したものの、元に戻すことができずに苦戦を強いられているようだ。
前期(2023年8月期)の国内事業の業績は、売上高が1205億円で、営業利益は15億円の赤字だ。
サイゼリヤの松谷秀治社長によれば、ピーク時はお客が店に入りきれずに帰ってしまっているというから、サイゼリヤのメニュー自体に問題があるわけではない。ミラノ風ドリアが300円、マルゲリータピザが400円、イカの墨入りスパゲッティが500円、ランチドリンクバーが100円…。多少の値上げをしたところで、サイゼリヤの圧倒的な安さは変わらないのではないかと考えてしまうが、それでも「意地の値上げ見送り」には拍手喝采を送りたいところだ。
ただし、苦境といっても国内だけの話で、23年8月期では、事業全体の売上高の3割強を占める海外事業の営業利益が約85億円と、前年度比で約3.8倍もの爆発的な伸びを示していて、株価は絶好調だ。「近未来のサイゼリヤ」に対して、投資家たちから高い評価を受けているということだろう。
すごく安くて、おいしい。サイゼリヤに対して、消費者はそんなブランドイメージを抱いているだろう。このブランドイメージを創業から今日に至るまで、サイゼリヤは磨き続けている。
後述するが、サイゼリヤのこの経営戦略は、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏の経営哲学そのものといっても過言ではない。稲盛氏が残した発言を振り返るとともに、サイゼリヤのビジネスモデルについて見てみよう。