あまりにも自然に使っているからこそ、「相手にどう伝わっているか」を見落としてしまう日本語があります。国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法をbefore→after形式で教える新刊『ていねいな文章大全』から、格助詞「に」によって生まれる誤解を紹介します。(構成・撮影/編集部・今野良介)
複数の解釈を生む格助詞「に」
格助詞「に」は、短い文でよく使われる、意味の広い助詞です。
「に」は、便利だからこそあいまいな意味になり、誤解の元になりがちです。
ここでは、誤解を招きやすい「に」を取り上げ、その直し方を考えてみましょう。
・私は会議で議長に推薦された。
この文は一見すると、私は議長というポストに推薦されたように見えますが、私とは違う会議の議長から、別の委員になるように推薦された可能性もあります。
次のようにすれば、誤解は防げます。
・私は会議で議長として推薦された。
・私は会議で議長から推薦された。
次の文はどうでしょうか。
・シンポジウムの開催日は10月1日に変更された。
この文は見たところ、10月1日にシンポジウムが開催されると解釈するのがふつうでしょう。
しかし、もう一つの解釈があります。それは、変更されたことの決まった日が10月1日という解釈です。
誤解を防ぐには次のようにします。
・変更の結果、シンポジウムの開催日は10月1日に決まった。
・シンポジウムの開催日の変更が、10月1日に決まった。
次の文も二つの意味に解釈可能です。
・上司に見えないように行動した。
一つの解釈は、上司の目には見えないように隠れて行動したという解釈。
もう一つの解釈は、自分が上司でありながら、いかにも上役と周囲の目に見えないように行動したという解釈です。
それぞれ次のように言い換えが可能です。
・上司からは見えないように行動した。
・上司らしく見えないように行動した。
格助詞「に」は主体か対象か
一方、次の文はどうでしょうか。
・海山商事には競争入札でかならず勝ってほしい。
この文も一見すると、海山商事が競争入札に勝つという海山商事応援歌のように見えるかもしれません。
しかし、我が社も競争入札に参加する場合、我が社が海山商事にかならず勝ってほしいという意味になる可能性もあります。
次のようにすれば、誤解はなくなります。
・海山商事に競争入札でかならず落札してほしい。
・我が社には海山商事に競争入札でかならず勝ってほしい。
次の文も複数に解釈できます。
・田中さんに話したいことがある。
一つは「話したい」相手が田中さんという解釈、もう一つは「話したい」主体が田中さんという解釈です。
それぞれ次のようにすれば、誤解は防げます。
・田中さんにたいして話したいことがある。
・田中さんには、話したいことがある。
拙著『ていねいな文章大全』では、このほかの「に」の扱い方や、その他の誤解を生まない文章のポイントについて、108課目にわたって豊富に紹介しています。