たとえば、親会社が組織として「元暴力団は反社会的勢力ではない」と主張してしまったため、巨人軍の選手たちの心の中に、慢心が生じた可能性は否めません。裁判後も、社会的に好ましくない人々と付き合う関係者は存在し続けました。「『反社』でなくて『半社』ならつきあいをしてもいいだろう」という雰囲気になってしまったのです。
フロントも原監督も、現場に厳しいことを言いにくい雰囲気があったのでしょう。2015年、巨人軍の選手があろうことか、野球賭博に手を出していたことが発覚しました。厳しい調査の結果、福田聡志氏、笠原将生氏、松本竜也氏の3選手が無期失格、高木京介氏が契約解除となりました。また、野球賭博の舞台となった店は、元暴力団の経営する店だとされています。
それ以外にも、巨人の一部の選手において、ジャイアンツ球場のロッカールームで賭け麻雀や賭けトランプなどが横行していた事実も確認されました。
二つの裁判が残した教訓
まずは組織の問題を炙り出すべき
こうした影響もあったためか、以降の原采配は必ずしも順風満帆とは言えず、巨人の成績も徐々に下降していきました。今回優勝した阪神タイガースや、それまでに連覇したヤクルトスワローズのように、高卒の選手を地道に育てるよりFA 組頼みのラインナップになっているようにも感じます。
私はあのとき「泣いて馬謖を切る」の気持ちで原氏に処分を下し、「巨人軍よ紳士たれ」というスローガンを保っていれば、原氏はこのような終わり方をしなかったのではないかと思います。ジャニーズ事務所同様、 裁判で組織の問題が事実認定された時点で、膿を出し切るべきだったのではないでしょうか。
今回、事務所の対応が後手に回った感が否めないジャニーズの性加害事件は、NG記者リスト、相次ぐスポンサーや主力タレントの離脱など、本来問われるべき問題と乖離した話題へと報道がどんどん拡大していき、収集のつかない事態となっています。
やってはいけないことを指摘されたのなら、まずはきちんと組織の問題を摘出し、一刻も早く再発防止策をとる。それが、この2つの裁判が残した根本的な教訓です。
ジャニーズ問題、特に性被害者への補償問題はやはり刑事告発という手段も考えるべきだと私が考えているのは、こうした裁判の教訓が理由の一つとなっています。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)