テレビ界から敬遠されていた
梨元さんの意外な晩年

「恐縮です」の決めゼリフで、芸能リポーターとして活躍していた梨元勝さんは、2010年に亡くなりました。享年65歳。陽気な声と朗らかな笑顔ばかりが記憶に残って、読者の皆さんは、梨元さんが『週刊文春』以上にジャニーズ事務所と戦い、批判し、それゆえどんどんテレビ局からパージされていたことを、あまりご存じないかもしれません。

ジャニーズと一人で戦った梨元勝が、もし今生きていたらかつてジャニーズ事務所と戦った梨元勝さんを、覚えているだろうか Photo:JIJI

 ジャニーズに限らず、大手芸能プロダクションに迎合するテレビ局の姿勢を厳しく批判していた彼は、晩年、リポーターとしての出番が激減していました。たとえば、静岡朝日テレビの『とびっきり!しずおか』には、当初2006年6月16日の放送に出演する予定でしたが、「ジャニーズに関する問題を取り上げるな」と番組側から事前に求められ、即座に降板を決定しました。

「視聴者が最も興味のあることを局の自主規制で止めようとすることは納得できない」と、降板理由を自らのブログで述べています。

 他にも『やじうまワイド』や『スーパーモーニング』出演当時、SMAPの稲垣吾郎氏が路上駐車で免許証の提示を求められ、急発進して逃走しようとして、道路交通法違反で逮捕されたときも、ジャニーズ事務所に配慮して報道を控えようとしていたテレビ局と激しく対立。一時番組をボイコットしたこともあります。

 ジャニーズ事務所に限らず、大手プロダクションをタブー視する番組には厳しい言葉で糾弾し、どんどん「出番」がなくなっていきました。

 しかし、梨元さんがいなくなるとともに、ワイドショーがつまらなくなったと思っているのは私だけではないでしょう。

 厳しい批判と書きましたが、彼の言葉は常にユーモアにあふれ、相手に逃げ道をつくりながら、しかし重要なことは絶対聞くという、巧みな質問術を持っていたからです。今回のBBC報道に端を発するジャニーズ性被害者の会見、あるいはジャニー喜多川氏による性加害についての番組を見ていても、芸能記者たちの及び腰の質問が目立ち、社会部記者はあまり事実関係を深く知らないのでツッコミが浅く、隔靴掻痒の思いを持った方も多いと思います。

 梨元さんと親しく、なおかつジャニーズ問題では例の最高裁の性加害認定の判決を勝ち取った文春チームのデスクだった私には、「彼がいてくれたら、もっとこの問題に対する視聴者の理解が深くなり、ジャニーズのまずい対応ももう少しマシなものになったのでは」と、双方の面で悔しくてなりません。