京セラ創業、KDDI躍進、JAL再建――稀代の名経営者、稲盛和夫は何を考えていたのか?
2つの世界的大企業、京セラとKDDIを創業し、JALを再生に導きますが、稲盛和夫の経営者人生は決して平坦なものではありませんでした。1970年代のオイルショックに始まり、1990年代のバブル崩壊、そして2000年代のリーマンショック。経営者として修羅場に置かれていたとき、稲盛和夫は何を考え、どう行動したのか。この度、1970年代から2010年代に至る膨大な講演から「稲盛経営論」の中核を成すエッセンスを抽出した『経営――稲盛和夫、原点を語る』が発売されます。刊行を記念して、本書の一部を特別に公開します。

「頭はいいのに、結果が出ない人」がハマる“残念な考え方”とは?Photo: Adobe Stock

「頭がよくても、結果を出せない人の共通点」稲盛和夫の答え

 私が自分自身の経営哲学を総合的に説明する中で、よく取りあげている項目に、私自身の人生観、仕事観を一つの「方程式」に表した、「人生・仕事の方程式」というものがあります。

 それは、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」というものです。つまり、人生の結果、また仕事の結果は、その人がもっている考え方、つまり哲学に、その人がもっている熱意、そしてその人がもっている能力を掛け合わせた値で表されるというふうに考えたわけです。

 私は長年、この方程式に基づいて仕事をしてきました。またこの方程式でしか、私自身の人生や、京セラの発展を説明することはできないと考えています。

 私は、決して裕福でない家に生まれ、中学や大学の入学試験、そして就職試験にもことごとく失敗してきました。そのように、多くの挫折を経験した、人並み程度の「能力」しかもたない私が、人並み以上のことを成し遂げるにはどうすればいいのだろうか、と考えた末に見出したのが、この方程式なのです。

 人生の結果、または仕事の成果を表すこの方程式の三つの要素、「考え方」「熱意」「能力」の中で、「能力」は多分に先天的なものです。両親から授かった知能や運動神経、あるいは健康などがこれにあたります。

 天賦の才とも言える、この「能力」を点数で表現しようとすれば、個人差があるため、それこそ、〇点から一〇〇点まであると言えるでしょう。

 この「能力」に、「熱意」という要素が掛かります。この「熱意」とは、「努力」と言い換えてもいいのですが、これに関しても、やる気や覇気のない無気力な人間から、仕事や人生に対して燃えるような情熱を抱き、懸命に努力をする人間まで、やはり個人差があります。この「熱意」も同じように無気力な人が〇点とすれば、燃える闘魂で誰にも負けない努力をする人は一〇〇点というように幅があります。

「頭はいいけど、やる気のない人」はどうなる?

 この「能力」と「熱意」を点数で表してみましょう。例えば、健康かつ優秀で、「能力」が九〇点という人がいるとします。この「能力」九〇点の頭が良く、良い大学を出た人が、もし自分の能力を過信し慢心し、真面目に努力することを怠るなら、その人がもっている熱意は三〇点くらいのものになるでしょう。すると能力九〇点に熱意三〇点を掛けても、二七〇〇点にしかなりません。

 一方、「自分は平均より少しだけマシな程度で、能力は六〇点ぐらいだろう。しかし、抜きん出た才能がないだけに、必死で生きていこう、必死で努力をしていこう、がんばっていこう」と自分に言い聞かせ、情熱を燃やし、ひたすら努力するような人であれば、「熱意」はまさに九〇点となるでしょう。そうすると、六〇点掛ける九〇点で、五四〇〇点と、先ほどの能力が高いが努力しない人の点数、二七〇〇点と比べると、もう倍の結果が出てくるわけです。

 つまり、平凡な「能力」しかもっていなくても、努力をひたむきに続ければ、能力の不足を補って、能力をもった優秀な才能にあふれた人の倍の成果を収めることも決して不可能なことではないのです。

 そして、この方程式で最も大事なことは、この「能力」と「熱意」の積の値に、さらに「考え方」が掛け算されてくるということです。