「マイナスの考え方」をすると、すべてが台無し
先ほど「能力」や「熱意」が〇点から一〇〇点まであると言いましたが、この「考え方」には、悪い考え方から良い考え方まで、マイナス一〇〇点からプラス一〇〇点までの大きな振れ幅があるということです。
例えば、自分の苦労を厭わず、「他に良かれかし」と願い、一生懸命に生きていくような「考え方」はプラスですが、世をすね、人を妬み、まともな生き方を否定するような「考え方」はマイナスの考え方だと、私は考えています。
そうすると、掛け算ですから、プラスの「考え方」をもっていれば、人生・仕事の結果は、さらに高いプラスの値となりますし、逆に少しでもマイナスの考え方をもっているだけで、その方程式の答えは一気にマイナスの結果となってしまうのです。「能力」があればあるほど、「熱意」が強ければ強いほど、人生や仕事において、大きなマイナスという無残な結果を残すことにもなってしまうのです。
先ほどの例で言えば、六〇点の「能力」と九〇点の「熱意」の持ち主が、人間として正しく、九〇点の「考え方」の持ち主であれば、方程式の値は、六〇×九〇×九〇で、四八万六〇〇〇点という、すばらしく高いものとなります。
一方、「能力」と「熱意」が同じであっても、わずかなりとも否定的な「考え方」、つまりマイナスの考え方をすれば、例えばマイナス一点の「考え方」の持ち主であっただけで、方程式の結果は、一転マイナス五四〇〇点となってしまいます。さらに反社会的でマイナス九〇点という、たいへん悪い考え方の持ち主であれば、最終的にはマイナス四八万六〇〇〇点という、きわめて悲惨な結果を、人生や仕事で招いてしまうのです。
では、どのような「考え方」でなければならないのでしょうか。私の考えるプラスの「考え方」を列挙してみたいと思います。
プラスの考え方とは?
常に前向きで、建設的であること。また、みんなと一緒に仕事をしようと考える協調性をもっていること。明るいこと。肯定的であること。善意に満ちた心をもっていること。思いやりがあって、優しいこと。真面目で、正直で、謙虚で、努力家であること。利己的ではなく、また強欲ではないこと。「足る」を知っているということ。そして、常に感謝の心をもっていることです。
プラスの考え方とは、今言ったようなことを備えていることであり、ひと言で言えば、善き考え方であり、善い行いをすることです。
マイナスの考え方とは?
一方、マイナスの考え方とはどういうものなのでしょうか。ちょうど、今挙げたプラスの考え方の対極に来る、いわば悪しき考え方であり、悪い思いをもち、悪い行いをすることでもあると考えています。これも、同じように列挙してみたいと思います。
後ろ向き、否定的、非協調的。暗くて、悪意に満ちて、意地が悪く、他人を陥れようとする。不真面目で、うそつきで、傲慢で、怠け者。利己的で、強欲で、不平不満ばかり言う人。人を恨み、人を妬む。こういったものが、悪い考え方ではないかと私は思います。
もちろん、それ以外にももっとたくさんあると思いますが、自分の考え方がはたして、プラスなのか、それともマイナスなのか、つまり善きものなのか、悪しきものなのかということを、日々反省を繰り返しながら、少しでもプラス方向、つまり善き考え方をもつように心がけていくことが、「人生・仕事の方程式」の結果を最大にすることになると私は思っています。
(本原稿は『経営――稲盛和夫、原点を語る』から一部抜粋したものです)