雲の種類は400種以上
雲の形を世界で初めて固定分類し、名前をつけたのは、イギリス人のルーク・ハワード(一七七二―一八六四)です。
製薬会社を経営する実業家だったハワードは、趣味の気象学にのめり込み、一八〇二年には雲の形ごとに、動植物の分類における命名法を参考にしてラテン語の名前をつけて分類しています。
私たちが使っている十種雲形も、ハワードによる分類がベースになっています。
ハワードは「人の心や体の状態が表情に表れるのと同様に、大気の変化に影響を及ぼす普遍的な原因が雲にも影響を与えている。
雲の状態はそれを示すよい指標だ」と述べていますが、私も全く同感です。
それぞれの雲には俗称、別名も多くあります。
このような俗称は、正岡子規(一八六七―一九〇二)をはじめ、日本の文学者たちが様々な作品の中で雲を表現するのに名前をつけてきたものもあれば、気象学者がその雲の物理的特徴を踏まえて名づけたものもあります。
巻雲は「筋雲」や「羽根雲」、「しらす雲」と呼ばれますし、巻積雲は「鰯雲」「鱗雲」など、魚に関連した名前です。鱗雲と見間違えやすい「羊雲」は、高積雲です。
高積雲と巻積雲はどちらも雲が群れたような見た目をしていますが、一つひとつの雲の大きさが違います。
空に向かって真っ直ぐ腕を伸ばし、人差し指を立てたとき、雲一つひとつが人差し指一本に隠れるようならば、巻積雲(鱗雲、鰯雲)です。
指一~三本くらいの大きさならば、高積雲(羊雲)です。巻積雲と高積雲の見た目は似ていても、高度が異なるため、遠近法から大きさによってだいたいは見分けられるのです。
なお、下層雲の一つ、曇り雲とも呼ばれる層積雲は、同じ方法で見たときに指五~一〇本くらいの大きさをしています。
基本は「十種雲形」で分類される雲ですが、実はもっと細かい分類や、どの雲からどの雲に変化したかという分類の方法もあり、全て組みあわせると四〇〇種類以上に及びます。
雲の形は、空の状態によって絶えず変わります。同じ雲を見ていたはずが、少し時間が経つと全く違う形になっています。
時間とともに大きく表情を変化させるのが雲の魅力の一つです。
(本原稿は、荒木健太郎著『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』から抜粋・編集したものです)
雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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