コロナの感染拡大による在宅勤務や生活スタイルの変化により、20~30代の若い人たちの間で、つみたてNISA口座を開設する動きが急増した。そして、2024年からは新NISAがスタートする。本連載では、新NISAをきっかけに投資や資産形成を始めてみたいという人に向けて、失敗しないためのポイントをわかりやすく解説していく。新NISAはこの9本から選びなさい』(中野晴啓著、ダイヤモンド社)の内容を基に、一部を抜粋して公開する。「新NISAってなに?」というビギナーの人でも大丈夫。基本的なところからわかりやすく説明するので、ぜひ最後までお付き合いください。

「新NISA」制度の特徴と、その注意点とは?Photo: Adobe Stock

新NISAの6つの注意点

 2024年1月からスタートする「新NISA」の6つの注意点を、ここで簡単にまとめておきましょう。

 特に、従来のNISAで運用していた人たちにとっては、「新NISA」になることで、従来のNISAとは異なる点も出てきますので、改めて確認してください。

 1点目は、従来のNISAでは一般NISAとつみたてNISAの併用はできませんでした。どちらかひとつを選ばなければならなかったのですが、「新NISA」では、つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能です(下図)。

 ただし、前述したようにつみたて投資枠は、1800万円の生涯投資枠いっぱいまで利用できるのに対し、成長投資枠は1200万円が上限になります。

 2点目は、特に成長投資枠を選んだ場合ですが、非課税枠が復活するからといって短期的な売買は避けるのが無難です。そもそもNISAは長期的な資産形成を行うための制度ですから、短期売買で得た収益を非課税にして丸儲けするのは本末転倒です。

 3点目は、2点目の注意点と関連してくるのですが、金融機関選びに注意してください。つみたて投資枠は基本的に、現行つみたてNISAの延長線上にあるので、販売手数料のかかる投資信託は対象外です。

 その点、成長投資枠は販売手数料のかかる投資信託も対象に含まれるため、金融機関のなかには、手数料稼ぎを目的にして高コストな投資信託ばかり勧めてくるケースが想定されます。この手の金融機関に「新NISA」の口座を作ってしまうと、金融機関に手数料を取られるばかりで、長期的な資産形成が一向にはかどらないという状況になる恐れがあります。

 4点目に、つみたて投資枠の場合は現行のつみたてNISAと同様、現物株式やJ-REITには投資できませんし、購入できる投資信託も一定のスクリーニング基準を満たしたものに限られます。これは前述した通りです。

 また成長投資枠については、株式やJ-REIT、そしてつみたて投資枠で購入できる投資信託以外の投資信託も購入できますが、①整理・監理銘柄、②信託期間20年未満、高レバレッジ型及び毎月分配型の投資信託は、成長投資枠の購入対象から外されている点に注意してください。

 5点目は、新NISAの投資枠と課税口座の間で損益通算ができない点にも留意が必要です。これは現行NISAでも同じで、課税口座を使って売買している株式に30万円の利益が生じて、NISA枠に20万円の損失が生じているからといって、課税対象額を損益通算して10万円にすることはできません。あくまでも課税口座に生じている30万円の利益に対して、20・315%の税率で課税されます(下図上段)。

 6点目は、それと同様に、損失の繰越控除も認められていません。

 仮に株式投資で50万円の損失が生じたとしましょう。これが課税口座の場合だと、損失は最長3年間、繰越控除できます。

 どういうことかというと、損失が生じた翌年を1年目として、その年の利益が20万円だとすると、それが前年の50万円の損失と相殺されて利益がゼロになり、それでも相殺し切れなかった30万円の損失額を、2年目の利益と相殺させることができます。それでも、まだ相殺し切れない時は、3年目の利益とも相殺できるのです。この繰越控除の制度が、現行NISAと同様、「新NISA」でも認められないのです(上図下段)。

 このように、損益通算と繰越控除が認められていないのは、NISAは損失が生じないものという前提で成り立っている制度だからです。長期にわたる資産形成を促進するための制度ですから、目先で生じた損失との損益通算や繰越控除は、ほとんど意味がないということで、これらが認められていないのだと思います。

中野 晴啓(なかの・はるひろ)
なかのアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
1987年明治大学商学部卒業。セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、2006年セゾン投信株式会社を設立。2007年4月代表取締役社長、2020年6月代表取締役会長CEOに就任、2023年6月に退任。
2023年9月1日なかのアセットマネジメントを設立。
全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にする活動とともに、積み立てによる資産形成を広く説き「つみたて王子」と呼ばれる。公益社団法人経済同友会幹事他、投資信託協会副会長、金融審議会市場ワーキング・グループ委員等を歴任。
著書に『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(ダイヤモンド社)他多数。