好評の「媚びない人生」対談シリーズ。昨秋、明治大学で行われた安藤美冬氏、本田直之氏との3人でのスペシャルトーク「2012年度著名人講演会」の模様をお届けします。著書『冒険に出よう』が大ヒット中で話題となっている安藤氏ら3人が、学生に送ったメッセージとは。中編です。(構成/上阪徹 撮影/石郷友仁)
本当の就職活動は、5年後に行え
安藤 今日は、就職活動がこれから始まるという人もたくさんいらっしゃっています。会場からツイッターに質問が上がっていますので、ひとつ。キム先生に就職についてのアドバイスが欲しいということです。『媚びない人生』の中に、「社会を知らずに仕事を選んでいることに気づけ」という記載があったそうですが、キム先生は慶応の特任准教授になられてもう何年目ですか。
キム 9年目ですね。
安藤 それこそ毎年ゼミ生が旅立っていって、いろんな就職模様を見てきたと思います。では、次はちょっと就活生に対してのアドバイスを。まず、キム先生から。
キム ゼミ生には、本当の就活は5年後にすると思え、と言っています。就活に不安を持っている学生は、ほぼ8割、9割に達すると思うんですね。
それはなぜかというと、まず大学3年では、自分自身についてよくわかってないからです。自分が将来、どんな方向に進んでいくべきか、それまで時間をかけて思考を積み重ねてきたわけではない。『絶対内定』とか『メンタツ』とかを読んだり、ときどきOB、OGと話をしたり、雑誌で記事を見たりして、自分はこういうところに進みたい、となんとなく思うくらいの感覚なんですね。つまり自分の将来の方向性について、自分自身と向き合ってこなかったのが一つ。
もう一つは、就職先についてもよくわからないからです。結婚ならパートナーについて、よくわかってから決めますよね。ところが就職では、自分についてもわからない上に、社会についても十分知らないわけです。学生として業界や企業について持っている知識は非常に限りがある。そんな不完全性の中で行われるのが、日本の就活なんです。
だから、まずは今、自分が持っている情報の中で最善を尽くしていい候補を選び、一生懸命就活する。実は、最終的にどこに入ってもいいんです。内定が一番欲しいところが駄目で、不本意な結果であっても、とにかく入る。そして入ってから5年後、もう1回、就活をすると思うべきなんです。
5年いれば、学生時代とは違う社会が見えてくる。この間に、自分がどういう方向に進みたいのか、目星が付けられる。そして、5年後にそこに転職ができるよう、揺るぎのない自分自身を作る。力をつけていくということです。
5年後に本当に就活をすると思え、というのは2つの意味があって、一つはあまり今の就活にプレッシャーを受け過ぎないこと。そしてもう一つ、人生はいつでもやり直しがきくということです。5年というのは象徴的な意味なので、それは2年後でも、10年後でもいいんですが、自分の中で、自分ならではの理想をちゃんと生み出してほしいんです。
日本の終身雇用や年功序列は大量生産システムの中でできあがった雇用環境です。同じ製品をたくさん生産して、平均コストを下げ、利益を出していく。そこには、創造性が伴いにくく、また奨励もされません。だから、文句も言わず、アイデアも出さずに与えられたタスクを黙々とこなしていく人材、愚直にやる人材を社会は求めていました。
でも、今の時代はモノがあふれていて、消費者も賢くなっています。機能や品質のみならず、ストーリーテリングやブランドイメージの力など、感性や創造性を高く評価する時代です。大量生産時代の同質性よりは、むしろ、異質性が大事になっているんです。だから、自分の中で生まれる社会に対する違和感や異質性は大事にしたほうがいい。結局、創造性というのは異質性の集まりである多様性の中からしか生まれないものです。
自分ならではの理想とは、例えば、本田さんのようにハワイに住む、ということでもいい。今の自分の中でハワイに住むというのは、非常に特殊な夢物語のように聞こえるかもしれませんが、誰が何と言ってもそうするんだ、という自分の中での決意を大切にし、それを持ち続けることが大事です。
実際、本田さんの『ノマドライフ』を読むと、単にハワイに住みたいから、といった軽い気持ちでは一切ないんですね。そのために何年もかけて着々と彼は準備を進めていったんです。だからこそ、実現から得られる喜びや満足感も大きかったと思います。
夢を大事にしてほしいですね。くれぐれも明日の自分の可能性を過小評価しないでいただきたい。