数年前、急性虚血性脳卒中(脳梗塞)の新たな救世主として話題になった「血管内治療」。脳血管に詰まった血の塊を動脈血管内から機械的に直接取り除いたり、薬で溶かすことで脳血流を再開通させる方法だ。脳卒中発作から6時間以内の治療で、後遺症の改善効果を発揮する。
一方、それまで「救世主」として君臨していた「t-PA(アルテプラーゼ)静注」は、血栓を溶かす薬を静脈から点滴注入する方法。後遺症の軽減や社会復帰の可能性が明らかに従来法を上回るため、期待は大きかった。しかし当初の適応が「発症から3時間以内」と限定されていたこともあり、実際に投与される患者は全体の5%にとどまっていた。
ただし、この時間制限は2012年8月末日の薬事・食品衛生審議会(厚生労働省)で「4.5時間以内」へ緩められている。搬送時間や事前検査時間を考えると、この1.5時間の差は大きい。自衛のために記憶しておいてほしい数字だ。
時間制限はさておき、この血管内治療とt-PA静注とでは、どちらがより有効なのだろう。この2月、英国の総合医学誌にガチンコ勝負の結果が報告された。研究では急性虚血性脳卒中の患者362人に対し、無作為に血管内治療、もしくはt-PA静注を行った。その結果、治療後90日時点で「身体障害なし」の割合は、6時間以内の血管内治療30.4%、4.5時間以内のt-PA静注34.8%だった。
もう一つ、別の試験でt-PA静注の後に血管内治療を併用する方法も検討された。こちらはt-PA静注単独との比較。その結果、90日時点で「後遺症なし」~「軽度の後遺症で身の回りのことは介助なしでできる」はt-PA静注単独で38.7%、併用治療で40.8%と血管内治療の上乗せ効果は認められなかった。
結論は尚早にしても両者の効果がほぼ同等であるなら、既に症例経験が蓄積されているt-PA静注に軍配を上げたい。せっかく時間制限も緩められたのだ。今後の合言葉は「脳卒中の勝負タイムは4.5時間」である。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)