かつて、マスメディアの王者だったテレビ業界が迷走を続けている。過去45年、キー局で実質的な新規参入が一度もなかった“守られてきた業界”は、制度疲労を起こしている。放送業界内からは、将来に対する不安の声が聞こえるも、自ら腰を上げる気配は見られない。そこで、官民の誰もが考えそうで考えなかった「在京キー局の合従連衡」とその必然性について、A.T.カーニーのメディア研究チームであるメディア・プラクティスが大胆に問題提起する。

 「最後の55年体制」といわれる、日本のテレビ産業(民間放送)。しかし、その不動の体制も、終焉のときを迎えつつある──。

 たとえば、2008年度の決算では、在京キー局5社のうち2社が赤字。2009年4~12月の数字でも、全社の放送事業が減収である。その原因は、主軸の広告収入の大幅な縮小にある。特に、08年以降のテレビ広告市場の縮小は顕著だ。

 この“テレビ不況”は、単なる景気要因によるものではない。08年秋以降の世界金融危機により、広告主企業がテレビ広告の出稿量を一時的に削減した部分はあるものの、それとは別に経済・産業構造の“大きな変化”が底流に流れていると考えるべきだ。

 まず、少子高齢化を受けて従来の内需型企業が海外展開に活路を求めるなかで、マーケティング投資が海外にシフトしている。加えて、国内でも流通の寡占化が進展し、広告費から販促費へのシフトが起きた。さらに、プライベートブランド(PB)の成長も、広告業界にとって逆風になる。一時的に、テレビ広告への回帰が起きても、景気が回復して金融危機前の市場規模に戻ることはあるまい。

 放送業界の衰退は、一産業の事象にとどまらず、日本の経済・社会全体にさまざまな悪影響を及ぼす問題である。

 第1に、国民が多くの時間を費やす、最も親しみやすい娯楽メディアの質が低下する。第2に、広告主企業への影響も大きい。最強の広告媒体であったテレビの弱体化は、さまざまな企業のブランド構築やマーケティングに大きな制約を課す。第3に、新たな輸出財としての期待を担う、コンテンツ産業に与える影響がある。

 現在、テレビ局では、アニメーションや映画などの輸出に適したコンテンツへの投資余力を失い、制作プロダクションを含む“制作の基盤”が弱体化しつつある。