「高額プレゼントで尽くしすぎていませんか?」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
やめたくてもやめられない
「異常に尽くす男性」であるコウジさん(仮名)の話です。
恋人の言うことを何でも叶えたり、夜中に呼び出されても笑顔で来てくれるような人は、素敵でしょうか。
尽くすことに満足感を見出すタイプは、一見、美しく見えます。
しかし、「どれだけ相手に尽くせたか」ということだけが愛情の深さだと勘違いしてしまうと問題が起こります。
コウジさんは、好きな人ができたら、まずは高価なプレゼントを買ってあげたり、高いレストランに連れて行くことから始めます。
ただ、知り合って間もない人から、高額なものをもらっても、素直に喜べないでしょう。
だいたいの異性は引いてしまいます。
プレゼントだけでは相手との距離は縮まりません。
無事に付き合えたことも何度かあったとコウジさんは言います。
その後の思いを聞くと、
「自分が尽くしたぶん、相手の気になるところをダメ出ししたり、行動を制約するようなことがあったかもしれません」
と話します。
おそらく一緒にいる相手を疲れさせてしまい、関係が長続きしないのでしょう。
「パートナーへの依存」をどう変える?
コウジさんは、ふだんの仕事や生活では、相手に固執しないと言います。
しかし、こと恋愛になると急に視野が狭くなって、相手のことを束縛したりしてしまいます。
仕事中にもパートナーのことを考えたり、LINEへの返事が遅いとソワソワするようなことが増えたりして、仕事にも支障が出始めてしまうと言います。
このように、特定の人に依存しすぎる人は、「自分には魅力がない」という思い込みが強すぎることがあります。
コウジさんの発言の中にも、
「誰かと仲良くなりたいけど、自分には他人に好かれるような魅力がないんです……。みんなはこんなこと考えないんでしょうけど」
という思い込みが見られました。
また、自分の意見を言うときに、「みんなが言ってる」「普通はこうする」と、主語が大きくなるところにも、依存体質が見られます。
彼自身、自分の依存しやすく流されやすい性格を自覚しており、
「こんな自分がイヤで仕方がない、消えてしまいたい」
とさえ言い出す始末でした。
ただ、ここで1つ、コウジさんが勘違いしていることがあります。
それは、「依存しやすいところを変える必要なんてない」ということです。
人に尽くし、献身的な面は、他人への優しさでもあります。
これは彼が持つ大切な個性なのです。
彼が変えなければいけないのは、依存的な体質ではなく、その表現方法です。
人には「好きなもの」があります。
「ゲームが好きでそれだけできれば人生満足です」
「おしゃれが好きで買い物しているのが何よりの時間です」
など、「好き」という感情は、生きる原動力になります。
そんな原動力を潰す必要はありません。
「依存」を減らしていくためには
「好き」を理性でとどめ、「依存」にならないようにするには、ジンクスの魔法によって表現方法を変えていくことです。
好きなパートナーのことを考えすぎてしまうときに、
「頭んなかがメンヘラになっている!」
という気づきをすることから始めてもらいました。
それだけでコウジさんは、「そんなことは考えもしなかった」と、救われた感覚になったそうです。
この感覚を見失わないうちに「理性的な自分」で自分をコントロールするため、ジンクスの魔法を取り入れていくことにしました。
「高額なものをプレゼントする」という表現方法を変え、
「相手のことが気になったら自分磨きをする」
というジンクスを作りました。
時間とお金が負担にならない程度に、「スキンケアをする」「古い服を捨てて清潔感のある服を揃える」などを実践するようにしました。
ここで重要なのは、相手のことを考えながら行動をするということです。
最初のうちはコウジさんの中に恥ずかしさがあり、「スキンケアをするなんて、自意識過剰でナルシストと思われないか」とドキドキしたようですが、周囲からの反応はとても良好でした。
「なんか顔色が良くなりましたね」
「明るくなった感じがします」
と、周りから言われるようになり、ジンクスはどんどん習慣化しました。
こうなってくると、いいスパイラルが生まれます。
外見だけでなく、それに見合う内面も大事だと考えるようになり、「読書する」「習い事をする」「しゃべり方に気をつける」などの行動にもつながっていきました。
「理性的な自分」でいるためには、「自信」が大事になります。
その自信を手に入れたコウジさんは、
「心に余裕が持てるようになった」
「パートナーとの関係でも、焦らずに向き合えばうまくいく」
「束縛しなくても他人は逃げない」
と、理性によって距離をとることができるようになりました。
理性によって感情をコントロールする、まさに「ハラ落ち体験」がやってきた瞬間です。
特定の人やものに依存して生きることは、とても苦しく、ツラいことです。
それを失うことがとてつもなく怖いからです。
しかし、ジンクスによって自信を取り戻せば、そこまで依存しない状態で安心して暮らすことができ、そのほうがラクなのだと納得できます。
誰しも、依存体質になりたくてなっているわけではありません。
生きていくため、生活を続けていくために、気づいたら依存体質になっていたのです。
私が知る依存体質の人は、そんな方々ばかりです。
「依存型」への処方せん
あなたにも、
「この人がいないと生きていけない」
「誰かを頼らないと決めることができない」
という依存体質を感じることがあるでしょう。
学校で一人行動をすることは他人の目が怖いですし、好きな人から既読スルーされると不安になりますよね。
その程度なら、誰しもが体験することです。
ただ、それによってイライラが止まらなくなったり、相手に迷惑をかけたりしてしまうと、問題が生じます。
また、「好き」という感情があるので、それを押さえつけて我慢することが逆効果だったりします。
「好き」と「依存」の間はグラデーションがあるのです。
その違いは、「理性的な自分」によってコントロールできる範囲かどうかです。
「ゲームが好きだけど、休みの日だけにしよう」
「プライベートの連絡は仕事が終わってからにしよう」
と、自分で自分を動かせるのであれば、まったく問題がありません。
これが依存になると、「すぐにやらないと死んでしまう」と思いつめてしまうのです。
依存を続けるのでも、依存をやめるのでもない、「第三の選択肢」が必要ということです。
流れに逆らおうとするのではなく、別の道を作ること。
先ほどのコウジさんは、「自分磨き」でしたが、あなたなら何を選択するでしょうか。
依存の根底には「救済体験」があります。
どうしても仕事がキツい日々が続き、ある日、ふとサウナが目に入り、リフレッシュしたとしましょう。
すると、「サウナに入ればラクになれる」という救済体験になります。
その体験を1つではなく、2つ3つと、選択肢を増やすのです。
「これが答えだ」「あの人が運命の人だ」と、感情的になるかもしれませんが、それが行きすぎないように理性で考える。
その考え方を身につけるようにしましょう。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。