「最先端の研究」のはるか先を行く考え方
うれしいことに、本書のおかげでとうとうその答えが手に入った。すぐれたマネジャーでいるためには、すぐれたコーチでいる必要があることを、本書『1兆ドルコーチ』は明らかにしている。人は高みに上れば上るほど、自分が成功するために他人を成功させることがますます必要になる──そしてそれを助けるのが、コーチなのだ。
私はこの10年間、ペンシルベニア大学ウォートンスクールで、必修講座のチームワークとリーダーシップを教えている。これらは厳格な研究をもとにした講座だが、ビル・キャンベルがそうした研究のはるか先を行っていたことには驚かされた。彼は早くも1980年代から、数十年待たないと(検証されることはおろか)構築されもしない理論を実践していた。
また、ビルの人材管理とチームコーチングの原則の多くに、いまだ体系的研究が追いついていないことにも愕然とさせられる。
ビルは時代を先取りしていた。彼がみずからの経験から導き出した教訓は、人間関係の質がキャリアや企業の命運を握る、現代の共創的な世界においてまさしく重要なものだ。
その一方で、彼の教訓には時間を超越した普遍性もある。ビルのコーチングに対する考え方は、いつの時代にも通用するものだ。
このところ、コーチングは流行になっている。昔はコーチといえばアスリートやエンタテイナーにつくものと決まっていたが、いまはリーダーがエグゼクティブコーチに、社員がスピーキングのコーチに学ぶ時代だ。
だが実際問題として、プロの専業コーチは、フィードバックや指導が必要な機会のほんの一部にしか立ち会うことはできない。部下や同僚、ときには上司をコーチする責任は、すべてわれわれ自身の肩にかかっているのだ。
コーチングは、個人のキャリアにとってもチーム全体にとっても、メンタリング以上に重要かもしれないと、私は考えるようになった。ためになる言葉をかけるのがメンターなら、袖をまくりあげて自分の手を汚すのがコーチだ。
コーチは私たちのポテンシャルをただ信じるだけでなく、さらに一歩踏み込み、私たちがポテンシャルを実現できるように助けてくれる。私たちに自分の盲点が見えるように鏡をかざし、弱みに正面から向き合えるようにしてくれる。私たちがよりよい人間になれるよう手を貸してくれるが、私たちの功績を自分の手柄にはしない。
そうしたコーチのロールモデルとして、ビル・キャンベルほどふさわしい人物は思いつかない。
軽々しく言ったつもりはない。これまで私は仕事でもスポーツでも、選り抜きのコーチにじかに学ぶ機会に恵まれてきた。若いころは飛び板飛び込みの選手としてオリンピックコーチの指導を受けていたし、最近では組織心理学者として、NBAボストン・セルティックスのブラッド・スティーブンスなどの名コーチと仕事をしている。
しかしビル・キャンベルは、そうした世界クラスの精鋭コーチの一人というだけではない。彼は自分には理解もできない仕事をする人たちまで助けられるように、それまでにない、まったく独自のコーチング・スタイルを生み出したのだ。