「行動経済学」について理解を深めることは、様々なリスクから身を守るためにも、うまく目的を達成するためにも、非常に重要だ。『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』を推薦する、東京大学大学院経済学研究科教授の阿部誠氏は、著書『大学4年間の行動経済学が10時間でざっと学べる』などで最先端の知見をわかりやすく紹介している。私たちは仕事や日常生活に行動経済学をどう活かせばよいのだろうか? 阿部教授にお話しを伺った。

【東大教授が教える】「私の指導で伸びた」と勘違いするリーダーの「残念な」共通点Photo:Adobe Stock

「叱る」ことが過大評価されてしまう

ミスや、失敗をしてしまった部下を指導するとき「叱る」場面もあるかと思います。

叱った後に部下がミスをしなくなったり、成功するというケースが多いはずです。

リーダーは「指導のかいがあって成長した」と感じるでしょう。すると、部下が再びミスをした場合は、また「叱る」指導が繰り返されます。

ここで注意しなければならないのは「平均への回帰」という統計現象です。事象がランダムに発生する場合、統計的には平均に近づくというものです。

つまり、運が悪くてミスをしてしまったり、失敗してしまった場合、放っておいても平均に近い成果に戻る傾向があるのです。

この点を無視してしまうと、あたかも「叱ったから部下がミスをしなくなった」と見えてしまいます。つまり、「叱る」ことの効果が過大評価されるのです。

「褒める」場合も、同様に気をつけなければなりません。部下が大きな成功をした場合、上司は褒めることが多いと思います。

しかし、その成功に運の要素が含まれる場合、「平均への回帰」が起こるので、次はそれほど成功しない確率が高いはずです。

「部下を褒めると成績が下がった」ように見えるので、「褒める」ことの効果は過小評価されてしまいます。

つまり、「叱ると成績が上がる」「褒めると成績が下がる」と受け取って、部下には厳しく指導したほうがいいのではないか、とリーダーが勘違いしてしまいます。

しかし、実際は「叱る」は外発的動機で部下のやる気を奪い「褒める」は部下に自信をつけさせて内発的動機を高める傾向があります。

「平均への回帰」を理解し、「褒めた後は成績が下がることが多い」という前提をもったうえで、上手に褒めて部下の内発的動機を高め、やる気を引き出すことが、リーダーには求められるのではないでしょうか。

(本稿は『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』の発売を記念し、東京大学大学院経済学研究科教授 阿部誠氏へのインタビューをもとに作成しました)