美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。
下手なのに味がある! 心をつかむ名画の魅力
MoMAの中でも異色な絵をご覧いただきましょう。こちらはアンリ・ルソーという画家の描いた「夢」という作品です。
──初めて見る絵ですけどずいぶん賑やかですね! 緑がきれいですが、よく見るといろんな動物が描かれているんですね~。見ていて楽しいです!
ほんとですよね。ではここでちょっと聞いてみたいんですが…。この絵は上手ですか? 下手ですか?
──えっそんなの、上手でしょう! こんなに鮮やかで緻密に描かれているんですから!
あら、そうですか? じゃあ、ちょっと冷静に見てもらいたいんですが、彼女は一体何の上に横たわっているんですか?
それに、頭部の左上にある水色のお花、これどういう形なんですか?
草陰から顔を覗かせるライオンは完全に瞳孔開き切っているんですが、大丈夫なんですかね?
──え~。そう言われると、このお姉さんでっかいキクラゲに張り付いているようにみえてきました。
はは、「キクラゲ」とまで言ってもらえるとは思いませんでしたが(笑)。
でも、この絵はそういう目で見ると決して上手に描かれているわけではないんです。これがルソーという画家のウリなんですよ。
──上手じゃないことがウリってありますか?(汗)
ありますあります。こちらをご覧ください。
こちらはニューヨークのグッゲンハイム美術館に所蔵されているルソーの「フットボールをする人々」という作品ですが、どう見えますか?
──え、フットボールって…サッカーですよね? なんでこの人、手でボール持ってんですか? その後ろの人はパンチみたいなことしてるし…。
なんかへんでしょ? 一番右の男性の右足、完全にヤバい方向に折れていますよね?(笑)
でもね、なんだかんだツッコミどころもあるんですが、総じて味があると思いませんか?
──確かに、これ僕のお気に入りにノミネートしそうなくらい、心惹かれています。
あれ、気が合いますねぇ! 私もこれお気に入りなんですよ(笑)。
当たり前ですが美術は上手であればいいというものではありません。
それと同時に、じゃあ下手だとダメというわけでもないんですよ。
「夢」も、「フットボールをする人々」もいわゆる私たちが言う「上手」には当てはまっていませんね?
だけど、とてつもなく味がある。結局それで心を摑んじゃうんですよ。
──確かにまさに今の僕ですね(笑)。
はは、そうそう。そしてそうやって心を摑まれた人の中にはピカソもいて、彼もルソーの作品を所持していたんですよ?
──なんと! ピカソも!? 急にルソーが立派な人に見えてきました…!
ピカソからしたら理解不能なヘタクソさだったんでしょうね。でも結果として心を摑まれているんですから、なかなかすごい人ですよ、ルソー。
──とりあえず「フットボールをする人々」のポスター買ってきます。
(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)